古典の日絵巻Picture scroll
「古典の日」からとっておきの情報や
こぼれ話などをお届けします。
古典の日絵巻 第十一巻:古典芸能干支絵巻
〜舞台で活躍する動物たち〜
犬猫もののテレビ番組に目を細めながら、劇場では化け猫や獅子の舞に心奪われる私。
鳥獣戯画絵巻から着想して、古典芸能で活躍する動物たち、毎月なので干支12種にちなんで連載します。鼠の妖術、菅公の牛、名画から抜けた虎、兎の飛団子、龍神の滝登り、お岩様は巳年の女、天馬の宙乗り、屠所の羊、靭猿、東天紅、八犬伝、五段目の猪と 能狂言 歌舞伎、文楽などからご案内いたします。
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その12 未 ひつじ 羊
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その11 午 うま 馬
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その10 兎 うさぎ 卯
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その9 亥 イノシシ 猪
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その8 酉 とり 鳥
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その7 戌 いぬ 犬
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その6 巳 み 蛇
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その5 子 鼠 ねずみ
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その4 辰 龍 たつ
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その3 丑 牛
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その2 猿 申 サル
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その1 虎 寅 とら
その12
未 ひつじ 羊
十二支をめぐる古典芸能の動物たちを綴ってきたが、いよいよ最終回。さあ書かなければと思ってテレビを見ていたら、世界びっくり映像的なものでアメリカ・ワイオミング州を走る車のドライブカメラがとらえたもの。まっすぐな道の向こうから横一列で走ってくるものがある、車は急停車。突進というよりトコトコ向かってくる羊たちを想像していただきたい。衝突せず、きれいに車の左右に別れ前進。しかし延々とその数6千頭‼遠い飼育場へ移動中ということだが、先導するシープドッグも追い立てる飼い主もいない。羊が意志をもっているようだった。日本での本格飼育は明治から、繊維としての羊毛と北海道のジンギスカン鍋だ。しかし、江戸時代の人々、十二支にはあるが見たことがない。龍や虎は絵画知識から想像できたが、たまに見世物で出会う珍獣扱いや山羊との混同が多かったとか。
古典で触れた羊は義太夫の浄瑠璃だった。「玉藻前曦袂(たまものまえあさひのたもと)」という作品。「三国妖狐伝(さんごくようこでん)」の妖怪、玉藻の前の物語だが、「三段目」は親娘の物語。桂姫、初花姫という仲の良い姉妹が悪者の犠牲になるのをかばい合う。負けた方が犠牲になると決めて碁を打つ、負けた初花が首を差し出すと、首受け取りの金藤次は桂を殺す。悪人側の金藤次、実は桂の父親だった。捨て子にした娘を身代わりにするという内容。姉妹が揃って登場するときの浄瑠璃は
わたしが、古典芸能で初めて耳にした「羊」はこれだった。さきほどのトコトコ走る羊ではなく、屠所(屠殺場)に連れてゆかれる家畜の心境。肉食が一般的ではなかった江戸期にもこの感覚は作者の頭にあった。たぶん漢詩などの影響からきたのだろう。水浅黄とは衣裳の色、武士が切腹するときの肩衣色。死装束だ。
ことばではなく本物?の羊が出てくる歌舞伎を見たことがある。「富岡恋山開(とみがおかこいのやまびらき)」通称、「二人新兵衛(にんんしんべえ)」という並木五瓶(なみきごへい)の作。藍問屋の玉屋新兵衛と木綿問屋の出村新兵衛、遊女・小女郎がからむ世話物だが、玉屋新兵衛が偽の借用書で脅される場が芝の神明社。その見世物小屋から出てきた羊が借用証を食べてしまい救われるという場。人間が羊と相撲を取るという見世物があったそうで、羊や山羊が紙を食べるという習性が知られていたこともわかる。
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わたしは広島県宮島で取材中、放送台本を羊ではなく鹿に食べられたことがある。ぼーっとしていて、チコチャンに叱られそうだった。
毎回、挿絵を苦労してくださった、諌山さん、干支の生き物たちの眼差しがみな優しく
温かい筆致ありがとうござました。