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古典の日絵巻[第七巻:きものがたり]
第十号 平成31年1月1日
けじめの贈り物
服飾評論家 市田 ひろみ
そもそも 御礼の気持や感謝を あらわすのに いくつの 日本語があるだろう。
英語ならサンキュー。日本語なら ありがとう。
これが くらしの中で しきたりとなると 御礼・感謝・志・謝礼・御年玉・御祝儀・御祝など…。
日本人はなんて ていねいなのか。
誰だって 御世話になったら 感謝するし御礼がしたい。
一応の感謝をとどけたい。
そんな心遣いが 日本人の コミュニケーションを作って来たのではないか。
いつか メキシコから 長方形の鏡の周囲にかざりをたくさん 張りつけたきれいなものが送って来た。
私はすぐに 御礼を書いた。
私は必ず 御中元や 御歳暮に 御礼を出す。
何を送ったら良いか、迷った末のもの 又、受けとってくれたかどうか?
中元や 御歳暮の時期になると 百貨店から 送りもののカタログが来る。昔はレミー・マルタンとかボルドーなどが 入っていたが 最近は 地味に なった。
一年 たった二回の 感謝デイだ。日頃の ごぶさたと おつきあいの 感謝。
けじめのおくりものだと思う。
いつか、札幌から帰り 飛行機の中で チョコレートを食べていたら 私の隣の女性 40代位か…。
「主人の会社の チョコレート 召しあがって頂いて ありがとう ございます」
「そうですか 私 これ 好きなんですよ。」
「ありがとうございます。主人に 報告します。きっと よろこぶと思います。」
きっと仲良し夫婦なのだ。
夫の作ったチョコレートを 食べてもらっている。ちゅうちょしながらも ひとこと言いたかったのだ。
素的な奥さんだった。
贈りものは 大層なもので 無くて良い。
相手の人が よろこんでくれれば良いのだ。
形がのこるものより 姿がなくなるものが良い。
おしゃれな包装紙も今は 演出だ。
家のどこかに 一輪挿しの花があれば良い。
その一輪が 心遣いなのだ。
部屋の中に 季節の一輪が いやしの空間になるのだ。すべては その人の心遣いだ。