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「古典の日」からとっておきの情報や
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古典の日絵巻[第八巻:わたしの源氏物語植物園]
『源氏物語』には、驚くほどたくさんの植物が登場します。千年前に紫式部が見た植物を京都府立植物園で年間を通して観賞することができます。物語に登場する植物は、それぞれ女性達の姿として例えられ、お互いが交わす文に詠われてきました。植物大好き!『源氏物語』大好き!!な、松谷茂名誉園長のお話を片手に植物園にお花を探しに出かけましょう!!
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3月 樺桜(カバザクラ)
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2月 梅(ウメ)
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1月 竹(タケ)
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12月 松(マツ)
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11月 山橘(ヤマタチバナ)
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10月 檀(マユミ)
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9月 藤袴(フジバカマ)
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8月 吾亦紅(ワレモコウ)
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7月 末摘花
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6月 橘
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5月 撫子
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4月 山吹
第八号 令和元年11月1日
11月 山橘(ヤマタチバナ)
京都府立植物園名誉園長 松谷 茂
「センリョウ、マンリョウ、ヤブコウジ」。正月のおめでたい縁起物、永遠の繁栄・長寿の象徴として親しまれているこれら樹木の共通項は、常緑で果実の色が赤いこと。今号で取り上げる「山橘(やまたちばな)」はヤブコウジの古名ですが、第51帖「浮舟」にのみ、つくりもの状態の描写で登場します。
宇治に住んでいる浮舟から中の君にあてた手紙、つまり女性から女性あての手紙なのに、匂宮が薫からの手紙かと嫉妬心で勘繰った場面。
正月の上旬を過ぎたころ、女童(めのわらわ)が中の君に差し出した宇治からの届けものは、浮舟から中の君に宛てた緑色の薄様(うすよう)紙に包んだ「大ぶりの包文(つつみぶみ)」と小松に結び付けた小さな髭籠(ひげこ)(竹で編んだ入れ物で、編み残しの一部が髭のようだから)そして、右近(浮舟の侍女)から太輔(たいふ)に宛てた立文(たてふみ)でした。
包文に書いてあった「これも若宮の御前(ごぜん)に。あやしうはべるめれど」の「これ」は、次に続く立文「若宮の御前(おまえ)にとて、卯槌(うづち)まゐらせたまふ」の、卯槌(うづち)(桃の木を四角柱に切って、五色の組糸を長く垂らしたもの)のことで(髭籠と小松、の解釈もある)、中の君と匂宮の二歳になる若君の邪気を払うため、正月のまじないものとして浮舟がプレゼントしたものでした。
この卯槌は趣向を凝らした見事な細工がしてあり、作りものの二股になった松の枝の一方には、これも作りものの山橘の果実を刺し通し、そこに、若宮の成長と繁栄を期待する浮舟の歌が結び付けてありました。
卯杖をかしう、つれづれなりける人のしわざと見えたり。
またぶりに、山橘(やまたちばな)作りて貫(つらぬ)きそへたる枝に
浮舟:まだ旧(ふ)りぬものにはあれど君がためふかき心にまつと知らなん
(第51帖「浮舟」より)
この場面、女童は卯槌をどのようにして運んだのか、どこにあったのか、気になります。源氏絵巻のいろいろを見ても、女童が差し出した文と髭籠は確認できるのですが、卯槌は見当たらない。ということは、おほきやかなる包文に包まれていたのかはたまた、髭籠の中に入っていたのか。
それはさておき、山橘。現代の和名はヤブコウジ(藪柑子)は魅力いっぱいの常緑性低木です。樹高はせいぜい20センチメートルまでと低く、高くならないのかなれないのか謎ですが、上層樹木からの木漏れ日の光で生き抜いていることは確かです。地下部を縦横に走る地下茎(けい)で群落をなし、小さな葉を多数しげらせ光合成。絨毯(じゅうたん)のように見える一面の葉に驚きです。
ヤブコウジの大きな魅力は、秋に実る光輝く赤色の果実。おめでたい縁起物にふさわしいのですが、じつは花の美しさもすばらしく、ぜひ見てほしい。葉に隠れるように、ひそやかに下向きに地味に咲くのでまったく目立ちませんが、透明感のある白色は絶品!
紫式部は、つるや枝、茎など長い器官を持つ植物を物語によく使っています(ヒカゲノカズラ、フジ、クズ、ユウガオ、フダバアオイなど)。「長い」はイコール、代が長く続き繁栄につながる(結び付けられる)から、なのでしょうか。観察力の鋭い彼女は、ヤブコウジの赤い果実はもちろんのこと、美しい花も長い地下茎もきっと見ていたことでしょう。
浮舟22歳、薫27歳、匂宮28歳
[参考図書]
秋山 虔ほか/源氏物語図典/小学館/1997年
玉上琢彌/源氏物語第十巻/角川文庫/2005年
阿部秋生 ほか校注/源氏物語6/新編日本古典文学全集/小学館/2015年
石田穣二 ほか校注/源氏物語八/新潮日本古典集成/新潮社/2005年
林 望/謹訳源氏物語十/祥伝社/2013年
秋山 虔 監修/週刊絵巻で楽しむ源氏物語五十四帖56/朝日新聞出版/2014年
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