「四季草花草虫図屏風」(蝶・蜻蛉)鈴木其一「春秋草木図屏風」

俵屋宗達「双犬図」※作品画像はすべて部分、細見美術館蔵

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「古典の日」からとっておきの情報や
こぼれ話などをお届けします。

古典の日絵巻 第十巻:京の美を担う次世代の作家たち

古典の日絵巻「第十巻:京の美を担う次世代の作家たち」をお届けいたします。 今年度は12回に亘り、それぞれのジャンルで活躍される作家の皆さんから、ものづくりやお仕事にかける想いを綴っていただきます。伝統と先端の間に立って挑戦し、誕生するものとは一体どのようなものでしょうか。作家の皆さんの手によって誕生するまでの知っているようで、知られなかった世界をお話いただきます。

第5回

◆杉本 晃則(すぎもと てるのり) 表望堂・塗師

1980年 京都市生まれ。
1999年 京都市銅駝美術工芸高等学校を卒業し、三代目鈴木表朔氏に師事。
2002年 日展初出品初入選、以降7回入選。
2007年 日独ARTRAINBOWPROJECT出品、ドイツ開催。
2008年 うるおい漆展で京都漆会賞を受賞。
2010年 京都工芸美術作家協会展で協会賞を受賞。全関西美術展で佳作を受賞。創工会展で京都府知事賞を受賞。
2011年 京都市美術館遭遇領域野外造形展で京都新聞社賞を受賞。
2012年 京都府美術工芸新鋭展工芸ビエンナーレ招待出品。創工会京都工芸賞受賞。
2014年 漆芸工房「表望堂」を設立。
2016年 島津製作所勤続記念品の制作を務める。
2017年 東京銀座マンション「湊」のエントランスオブジェを制作。
2018年 東京日本橋太陽生命株式会社社屋のエントランスオブジェを制作。

◆島本 恵未(しまもと めぐみ) 表望堂・蒔絵師

1988年 和歌山市生まれ。
2011年 京都精華大学日本画専攻を卒業し、村田好謙氏に師事。
弟子入りと同時に京都市産業技術研究所での漆塗りの勉強を経て後に独立。
2014年 うるおい漆展で京都府知事賞受賞、漆芸工房「表望堂」を設立。
2015年 京ものユースコンペティションでグランプリを受賞。
2017年 公益財団法人大桑文化振興財団大桑文化奨励賞受賞。
2018年、2019年 パリのMaison&Objetに出展。
2020年 大丸松坂屋300周年記念品の制作を務める。

 私は現在、夫婦と2人の職人と共に、表望堂(ひょうぼうどう)という工房で漆という素材に関わる様々な仕事をさせて頂いています。お寺に漆を塗り、仏像に漆を塗り、蒔絵や螺鈿(らでん)を施した工芸品を作り、アートを公共施設に飾って頂く事もあります。そうしていると、この仕事は世間的には珍しいらしく「なぜこの道を志したのか?」とよく聞かれます。しかしその度に漆への言葉にならない気持ちでうまく答えられずにいました。今回この場をお借りして、私なりに考えてみようと思います。


京都の塗りは京塗りといいます。室町の時代から栄え、茶の湯の文化とともに長く茶道具の需要に応じて発展してきました。特徴としては、茶道具や時の権力者への献上品としての需要が高かった為か、とても作りが薄く華奢で、全体の形に品があり優美であるとされます。

 漆の歴史は長く、はるか一万二千年前の縄文時代に遡ります。土器や木を保護する為に塗布したり、魔除の為の祭具にも使われていたそうです。歴史の記述に初めて登場するのは平安時代の色葉字類抄(いろはじるいしょう)※注1で、ヤマトタケルノミコトが奈良の曽爾(そに)周辺で狩りをしていた際、艶めく漆の樹液を見つけ、朝廷に献上する漆器を作る役所をその地に置いた旨が書かれています。同じ時代に生きた惟喬(これたか)親王の伝説も有名で、漆塗りに欠かせない木地を挽く技術を発明し、木地師の集団を育成しました。全ての山で木を切る特権を与え、木地作りと漆塗りを全国に伝えたと言われます。それからも漆の技術はそれぞれに発展を続け、青森の津軽塗、岐阜の春慶(しゅんけい)、福島の会津塗、石川の輪島塗等々、各地方には漆の文化が今も息づいています。その歴史と広がりを学んだ時、人の体に血が流れるように、漆という植物の樹液がこの国の隅々に行き渡っているように感じました。

※注1 色葉字類抄…平安時代末期に成立した古辞書で、日本最古のイロハ引き辞書です。当時の日常語や固有名詞が多く掲載されています。

 私が初めて漆というものを意識したのは、大学に入りたての頃に見た、桃山時代に作られた金蒔絵の工芸品でした。それまで学んできた絵画の表現の美とは全く質の違う美に衝撃を受けたのを覚えています。それは確かに人の手の高等技術で作られたものであるのに、まるで蜂の巣の正確な六角形や、雪の結晶のフラタクル※注2のように、自然が作り出す完璧な黄金比の美が鍛錬を重ねた人の手を通して現れたかのように感じられました。そしてすっかり漆に魅入られたその時に、私の足元にバトンが転がってきたのです。それは数多の人の手から手に、一万二千年前から渡ってきたものでした。それを拾い上げて道に順ずることに躊躇いはなく、私にとってはあくまで自然なことでした。そんな漆との出会いから10年、そうして私は長い漆の歴史の一部となり、漆と共に日々を生きています。これをどう表現したものか、私も、きっと夫も、うちの職人達も、「なぜ」に明確に答えられません。気がつけば過去の数多の職人達と同じ道の上に立っていました。

 「漆の一滴は血の一滴」とは、昔から繰り返し漆職人の間で口に登る文言ですが、きっと我々もこの国に行き渡る漆の一滴となり、そして過去から未来に漆の文化を伝えていく役割があるのだなと感じています。漆と共に日々邁進し、また私の手からバトンを受け取ってくれる人を待つ。それがきっと私の「この道を志した理由」なのだろうなと思っています。

※注2 フラタクル…自己相似的に拡大しながら繰り返される複雑な図形のことで、自然界に多く見られる幾何学の概念の一つ。フラタクル図形を細かく分けたものを拡大して見てみると、全体の形をほぼそっくりに縮小コピーしたようなものが見られ、例えば雪の結晶もどれだけ複雑な形をしていても、拡大して見てみるとその最小単位の形は全体と同じ形をしている。


螺鈿と蒔絵を施したガラス
近年漆の精製技術も向上し、ガラスにも塗れる漆が出来てきました。それを使いガラスに様々な漆の技法を施すことで、漆を新しく見て頂けるもとして製作しています。

 


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「私のこの一作」

追憶の箱

これは去年、大丸松坂屋様の創立300周年記念に顧客の皆様へのお礼の品としてご依頼いただきお造りした作品です。
お客様とのメモリアルボックスにとのことだったので、この先の300年も自然と受け継がれる、思い出の宝箱のイメージで作らせていただきました。私の原点である金蒔絵の漆器をモチーフにしています。豪華な金粉と螺鈿を沢山使った、大変思い出深く楽しい作品でした。