「四季草花草虫図屏風」(蝶・蜻蛉)鈴木其一「春秋草木図屏風」

俵屋宗達「双犬図」※作品画像はすべて部分、細見美術館蔵

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「古典の日」からとっておきの情報や
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古典の日絵巻 第十巻:京の美を担う次世代の作家たち

古典の日絵巻「第十巻:京の美を担う次世代の作家たち」をお届けいたします。
今年度は12回に亘り、それぞれのジャンルで活躍される作家の皆さんから、ものづくりやお仕事にかける想いを綴っていただきます。伝統と先端の間に立って挑戦し、誕生するものとは一体どのようなものでしょうか。作家の皆さんの手によって誕生するまでの知っているようで、知られなかった世界をお話いただきます。

第2回

諏訪 蘇山(すわ そざん) 陶芸家

父 三代 諏訪蘇山・母 十二代 中村宗哲(そうてつ)の三女 。平成14年9月、四代諏訪蘇山を襲名。各地にて諏訪蘇山展を開催。初代蘇山は加賀藩士の家に生まれ、明治維新後、九谷で陶画を学び、焼き物の道に入る。1907年、蘇山青磁を完成させ、1917年に帝室技芸員を拝命。姪の虎子(とらこ)が二代を継ぎ、その甥の修が三代を継ぐ

 初代 諏訪蘇山は江戸の終わりに武士として生を受けましたが、明治維新により武士は廃業、その後焼物の道へ入りました。我が家は初代が南宋時代の青磁を手本として作り上げた青磁の色を代々繋いでいます。青磁の色は、釉薬(ゆうやく)の中に微量に含まれる鉄分が、高温の窯の中で還元という作用を受け発色したものです。初代蘇山は釉中だけでなく胎土(たいど)の鉄分もその深い青色を構成するものと認識し、生地に鉄分を練り込んで美しい青磁の色を出すことに成功しました。大正六年にはその青磁の作品が評価され帝室技芸員に任命されました。

青瓷耳付不遊環花入
初代 諏訪蘇山作

五彩唐子(ごさいからこ)置物と石膏型 大正2年作
初代蘇山が石膏型を用いて作った磁器の人形と石膏型。

白瓷蛍手(はくじほたるで)星座茶盌
生地に穴を空け透明な釉薬をかけるとその部分が光を透し星のように見えます。その部分に上絵で色を入れて星座の輝きを表現しました。お抹茶を飲んだ方にだけ星座が見えます。

 私が初代から受け継いだものはその青磁の色だけではありません。当時日本に伝わったばかりの技術である石膏型を用いた陶磁器作品の制作技法や珍しい鉱物を使った釉薬、また尽きない研究心、そしてそれぞれの作品に心を入れる、という教えです。初代の作品や初代の友人達によって伝えられた逸話などから感じた「その時代にその人にしか出来ない作品を作る事を無上の楽しみとする」という思いを大切にしています。

 諏訪家は二代蘇山の頃から主にお茶道具を作っています。私の母である十二代中村宗哲からは、お茶道具を作る時は、その作品に物語を込めて作りなさいと教えを受けました。お茶会へ参加する度に、私達作り手の物語がお道具を使う方の物語と合わさり、お茶席という場所で様々な景色を生み出しているのを見て、幸せな気持ちになります。
諏訪家と中村家から学んだことをいかに作品にしていくか、これを永遠の課題とし、これからも使い手の心に添うもの作りを心がけていきたいと思います。

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「私のこの一作」

練込青瓷曙水指

この作品は『枕草子』の最初の言葉「春はあけぼの」を想い作ったものです。
五色 【 白・青・藍・薄紅・黄 】の磁土(じど)を用い、それを重ねてろくろでひいて、少し乾かしてから削るとこのような美しい模様が現れます。先に白・青・藍・薄紅の四色で、星が誕生する様子を思い描いた練込青磁(ねりこみせいじ)の作品を作っていたのですが、そこに黄色を加えることにより春の早朝のふんわりした景色を表すことができました。塗蓋(ぬりぶた)は姉である千家十職塗師(ぬし)十三代中村宗哲に作品を見せて、これに合うやさしい溜塗り(ためぬり)の蓋にしてもらいました。水指(みずさし)を作るときはたいてい姉に塗蓋を作ってもらいますが、焼き上がった作品を姉に見せてこの水指にはどんな蓋が合うかな、と相談している時は二人にとって楽しい時間です。そして蓋が出来上がって本体に乗せた時には二人の思いが重なった一つの作品となります。