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「古典の日」からとっておきの情報や
こぼれ話などをお届けします。
古典の日絵巻 第十巻:京の美を担う次世代の作家たち
古典の日絵巻「第十巻:京の美を担う次世代の作家たち」をお届けいたします。
今年度は12回に亘り、それぞれのジャンルで活躍される作家の皆さんから、ものづくりやお仕事にかける想いを綴っていただきます。伝統と先端の間に立って挑戦し、誕生するものとは一体どのようなものでしょうか。作家の皆さんの手によって誕生するまでの知っているようで、知られなかった世界をお話いただきます。
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3月 江里 朋子 截金作家
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2月 平井 恭子 木版画摺師
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1月 羽田 登喜 染色工芸家
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12月 種田 真紀 絵付師
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11月 山本 茜 截金ガラス作家
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10月 八木 隆裕 茶筒職人
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9月 青山洋子 和菓子職人
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8月 杉本晃則 塗師・島本恵未 蒔絵師
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7月 小倉智恵美 竹工芸作家
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6月 伊東庄五郎 御所人形師
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5月 諏訪蘇山 陶芸家
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4月 吉岡更紗 染色家
第4回
小倉 智恵美(おぐら ちえみ) 京竹籠 花こころ
神奈川県生まれ。高校卒業後、京都伝統工芸専門学校(現・京都伝統工芸大学校)竹工芸コースにて主に編組加工(籠を作る技術)を学ぶ。2004年卒業し、同期生と共に中京区にて工房を立ち上げる。竹工芸品店や神社、寺院等からの受注制作により研鑽を積む。2011年独立して、下京区に工房を構える。「花のようにただ懸命な心で作品を生み、安らぎを届けたい」という想いから、屋号を『京竹籠 花こころ』とする。
古来より竹は日本人にとって身近な素材だった。縄文時代後期の遺跡からも竹を編んだ籠が出土しており、以後生活の様々な場面で竹製の道具が用いられてきた。平安時代末期作とされる華籠(けこ)※など、美しい細工の品は古くから存在するが、特に美術的価値が見出されるようになるのは、室町時代、茶の湯のおこり以降である。中国で作られた精緻な細工の竹籠が輸入され、唐物の花籠として珍重されるようになった。「唐物写し」と呼ばれる作品があるが、職人達は唐物を真似て作ることでその技術を体得していった。一方、千利休は竹で編まれた魚籠や鉈(なた)のさやに枯れた美を見出し、花籠に見立てた。また華道や煎茶道においても、その美意識に沿うものとして竹のお道具が用いられてきた。文化の中心都市であり続けた京都では、そのような美術工芸品としての竹籠が多く作られ、技術が磨かれてきた歴史がある。
※寺院にて散華をする際、蓮の花弁(を象った紙)が盛られる器
竹ひご作り
丸竹をのこぎりで切り、鉈で割るところから作業は始まる。この後、別の刃物で幅を揃え、面取りをし、厚みを整えていく。編み方や作品の大きさ・形状に合わせ、最適な状態のひごを作ることが仕上がりの要となる。
白竹花模様小蓋物
茶道の茶箱に収められる小さな菓子器としてお作りした作品。
Kyoto Basketry Accessory Series リング
竹を火で炙って曲げた土台に、蝶結びなどと呼ばれる籐(とう)の装飾を施した。環境負荷のない染料を用い、ファッションに合わせやすいカラーバリエーションを揃えた。
私が京都で竹工芸を志した理由は二つあり、一つは精神性ある伝統文化に心惹かれ、大切に守りたいと思ったこと。もう一つは環境保全への想いから、古来より続く自然に根差したものづくりで少しでも役に立ちたいと思ったことだった。
専門学校で技術を学び、卒業後しばらくはお店や個人の方からの受注による制作を行っていた。花籠や盛籠、茶托といった伝統的な用途の品物を中心に作っていたが、徐々に出展のお声掛けを頂くようになり、そのような品を展示するも、なかなか売れないという事が続いた。そんな中、今求められているものとは何だろう?と考える時間が増えていった。京都では竹籠作りの緻密な技術、美しい編み模様や装飾技法が多様に存在し、受け継がれている。それらの価値を実感しながら、しかし制作物が売れないようでは後世に遺していくことは叶わない。そのような葛藤の中で生まれたのが、「Kyoto Basketry Accessory Series バングル、リング」だった。伝統的な編み模様や装飾技法の美しさを最大限生かすことに留意しながら、他方で新しい形状や染色技法に挑戦をし、今のデザインにたどり着いた。元々持っていた繊細な作風を生かしたものだったこともあり、このアクセサリーをきっかけにこれまで作っていた品物にも光が当たるようになった。日本の大切な伝統文化と共に、竹工芸の技術を守り伝えるため、今後もその魅力を広く知っていただけるようなものづくりを続けていきたいと考えている。