「四季草花草虫図屏風」(蝶・蜻蛉)鈴木其一「春秋草木図屏風」

俵屋宗達「双犬図」※作品画像はすべて部分、細見美術館蔵

フォーラムForum

古典の日フォーラム2014

  「古典の日フォーラム2014」を開催いたしました 木々が色づきはじめた京都国際会館において「古典の日フォーラム2014」を開催いたしました。 フォーラムの幕開けを飾るのは、昨年、第5回古典の日朗読コンテストで京都府高等学校芸術文化連盟会長賞を受賞した田中翔子さんです。大勢の観客の前、堂々と「古典の宣言」を読み上げていただきました。 まず最初の挨拶で、よびかけ人の千玄室さんが古典を熟読する大切な時期にきていることを語られ、次に「古典の日」制定にご尽力いただいた伊吹文明衆議院議長から、古典が日本人の心根の表現の原点であり、本当の文化というものは、その民族の固有の生き方の表現であることを、日本の記念すべき「古典の日」を通して、しっかりと若い人達に伝えていかなければならない重要性を称えられました。さらに青柳正規文化庁長官からは、文化庁の予算事業において「古典の日」に関する取り組みに対して継続的に財政支援が行なわれ、今日も全国でさまざまな日本的な文化イベントが開催されていること。2020年に開催されるオリンピック・パラリンピックを目標に日本各地で文化力の基盤を形成し、2030年くらいには、日本が文化芸術立国となることを目指し、11月1日の「古典の日」は、そのための大きな契機になることを話されました。 さて、連続講演のトップは裏千家・前家元、千玄室さんの「古典と私」です。旧制中学時代に先生に薦められた「記紀」。『古事記』『日本書紀』からどのように日本が生まれてきたかを知り、800年前、鴨長明が隠棲を送った簡素でわびた風情のある”方丈庵”がまさに茶室の原点であること。そこで執筆された『方丈記』には、今日、日本を襲う自然災害に対しての警告が示されており、この世の中で何が役立つのかを教え導いてくれるものが古典の中にあるからこそ、今一度、古典を紐解き、その中から必要なものを取り出していくために、「古典の日」を中心に、古典を熟読し、古典が広がっていくことを願う、と結ばれました。 次に、銅版画家・山本容子さんの講演です。山本さんの絵はどのような発想から生まれてくるのでしょうか?本を読んで読書感想文を書いた思い出をみなさんお持ちかと思います。山本さんの場合は、読書感想絵。どんな読み物だったのか、一体その本から何を感じたのか、読み手の一人としてそれを絵に表現してこられました。『不思議の国アリス』に登場する自由闊達な少女にとりことなり、17年間描き続けた頃が丁度、源氏物語千年紀の年。日本の古典の中にもそんなアリスのような少女がいるのではないか。そして日本の古典に触れ、平安時代に生きた、いきいきとした少女との出会いから「山本容子の姫君たち」が出来上がりました。絵の中には、物語には文字に書かれていない山本さんのウィットにとんだ想像が詰め込まれていたのです。 最後は、古代ギリシャ・ローマ美術史研究の第一人者である青柳長官の「古典と現代文化」についてのお話です。工芸を中心に、それぞれの分野の人が憧れの対象とし、それに挑戦してみたいと思わせる、その対象としてきたものが古典ではないか。日本文化には、継承性、継続性があるが、それだけにとどまらす、海外からの文化の影響も柔軟に摂取しながら日本的なものをつくりあげ、継承させてきた。工芸作家にとって、古典という存在は目標にしたり、挑戦したいという模範であり典例の役割がある。しかし憧憬を単なる再現に終わらせるのではなく、それがつくられた精神を導入して自分のものとする喜び、また時代を超えての大きな流れを一緒に感じることができたりする。それが広い意味での古典である、との考えを述べられました。 第2部は、ヴァイオリニスト・玉井菜彩さんとチェリスト・上森祥平さんによる弦楽二重奏です。20世紀のハンガリー出身の作曲家・コダーイが作曲した「ヴァイオリンとチェロのための二重奏曲」。息の合ったお二人の演奏は、力強く透明感のある音色が心の奥底に響きました。 そして、フォーラムの最後は、来年の琳派400年記念を先駆けて送る高階秀爾先生と芳賀徹先生の対談「現代に生きる琳派」です。琳派は、現代にどのように生きているのでしょうか。琳派の始祖と言われる宗達・光悦が生きた時代は、平安の古典を学ぶ公家や町衆、ブルジョワジーがいた古典復興の時代でした。古典の世界からモチーフ、画材をとった優れた美術が生まれました。歴史的な軸と社会的な軸が交わるところに、優れた才能、感覚、感性がプラスされて誕生したのが琳派です。日本人が創りだす作品は、そこにすべてを描き出すのではなく、文学的知識、教養等の形而上学がその内に込められ、それを見る者は、その美学を感じ取る感性を持ちあわせています。西洋との大きな違いは、西洋美学には作家の独創性が美学の基本にあるが、日本では日本の美学を受け継いでいくことが重要で、その文化の根は、今日までさまざまな大きな変動を潜り抜け、大切に受け継がれてきたのです。今に生きる作家が、前の世代に憧れ、それを自分のものとしてさらに発展していくことを期待すると締めくくられました。このフォーラムには、1700名もの方が来場され、盛況裡に終了いたしました。ご来場いただきました皆さま、まことにありがとうございました。 また、本日、ご講演いただく予定をしておりました瀬戸内寂聴さんが、体調不良のためご出演できなくなり、急遽ご友人である千玄室様がご講演をお引き受けくださいました。そのお心に感謝申し上げるとともに、一日も早くあのやさしい笑顔で私達の前にお出ましくださることを、ここに参会いただきました皆さまとともにお祈り申し上げます。最後にチケット販売におきまして、新たな販売方法を導入いたしました結果、とまどいが生じたとのお声が寄せられました。皆さまからいただきましたお言葉は、今後の運営につきまして諸事改善してまいりたいと存じますので、今後とも古典の日推進委員会をご支援くださいますよう、お願い申し上げます。  

「古典の日フォーラム2014」会場風景

日時:平成26年11月1日(土) 午後1時30分~4時50分 場所:国立京都国際会館 メインホール ※画像をクリックすると大きい画像が表示されます。

当日プログラム

総合司会:杉浦圭子さん(NHK大阪放送局)

【第1部】

「古典の日」宣言
田中翔子さん(第5回古典の日朗読コンテスト受賞者 京都府高等学校芸術文化連盟会長賞)
挨拶
千玄室さん(よびかけ人) 村田純一 古典の日推進委員会会長
衆議院議長 伊吹文明さん(来賓) 文化庁長官 青柳正規さん
連続講演「古典と私」
「古典と私」:千玄室さん(裏千家第15代・前家元、ユネスコ親善大使)
「山本容子の姫君たち」:山本容子さん(銅版画家)
「古典と現代文化」:青柳正規さん(文化庁長官)

【第2部】

クラシック演奏 「コダーイ:ヴァイオリンとチェロのための二重奏曲より第1・3楽章」: 玉井菜彩さん(ヴァイオリニスト)、上森祥平さん(チェリスト)

琳派400年記念対談「現代に生きる琳派」: 高階秀爾さん(大原美術館館長、東京大学名誉教授)、 芳賀徹さん(静岡県立美術館館長、東京大学名誉教授)、聞き手・杉浦圭子さん

【会場内】

「古典の日」が制定されたことを記念して特殊切手「古典の日制定」が発売されました。 おかげさまで休憩時間には完売となりました。
現代に生きる琳派デザインの着物で会場に彩りを添えていただきました。 (左/竹林、右/松島図)協力:染匠市川株式会社