「四季草花草虫図屏風」(蝶・蜻蛉)鈴木其一「春秋草木図屏風」

俵屋宗達「双犬図」※作品画像はすべて部分、細見美術館蔵

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古典の日絵巻「第九巻:古典作品で楽しむ和菓子」

『源氏物語』『枕草子』『東海道中膝栗毛』等、皆さんご存知の古典文学のどのような場面でお菓子が登場するのでしょうか?昔と今の違いは?平安から江戸時代まで、菓子の甘味はやさしく心を和ませていたことでしょう。当時の人達が、たいせつに味わっていた様子を思い浮かべながら読み進めていきましょう。ティーブレークのお供にぴったりの中山圭子さんのお話です。本棚から古典を探して読み返したくなること請け合いです。

中山 圭子

(なかやまけいこ)

株式会社虎屋 特別理事 虎屋文庫 主席研究員

東京藝術大学美術学部芸術学科卒業。卒論のテーマに「和菓子の意匠」を選ぶ。
著書に『和菓子のほん』(福音館書店)『江戸時代の和菓子デザイン』(ポプラ社)『事典 和菓子の世界 増補改訂版』(岩波書店)などがある。

古典の日絵巻第九巻 古典作品で楽しむ和菓子

おはぎ(左から きなこ・こしあん・つぶあん)今西軒製

第四号 令和2年7月1日

7月 『宇治拾遺物語』(うじしゅういものがたり)と「かいもち」(かいもちひ・掻餅)
株式会社虎屋 特別理事 虎屋文庫主席研究員 中山圭子

鎌倉時代初期に成立したといわれる『宇治拾遺物語』は、197話をおさめた説話集です。仏教に関連する説話が中心ですが、階層を問わず、人間心理を巧みに描写し、笑いを誘うものが少なくありません。今回の「児(ちご)のかいもちするに空寝(そらね)したる事」もその一例で、学生時代に教科書で学んだ方も少なくないでしょう。

舞台は比叡山のお寺。ある夜、僧たちが「いざ、かいもちひせん」というのを、児(僧に仕える少年)が耳にします。かいもちが出来上がるのを待って寝ないのも居心地悪く、児は部屋の片隅で寝たふりをします。出来たところで、僧は声をかけますが、児はもう一度呼ばれてからと考え、黙ることに。しかし、僧たちは寝ているのを起こすのもどうかと思い、声をかけません。以下、引用すると…

今一度おこせかしと、思ひ寝に聞けば、ひしひしと、

たゞ食ひに食ふ音のしければ、すべなくて、

無期ののちに、「えい」といらへたりければ、

僧達笑ふ事かぎりなし。

 

声がけを待っているものの、むしゃむしゃと食べる音が聞こえ、児が黙っていられなくなる様子が読者にも伝わってきます。間が抜けたタイミングで返事をしたところ、僧たちは大爆笑。楽しい結末です。

 

さて気になるのは、「かいもち」。いったいどのような食べ物だったのでしょう。学生時代には、おはぎ(ぼた餅)のようなものと教わりましたが、調べてみると解釈はほかにもあることがわかりました。

まずあげられるのは「掻い煉り餅」の略という説です。これは、もち米の粉や蕎麦粉、小麦粉などを水や湯でとき、餅状になるまで練ったり、煮たりしたものと解釈されます。今の「蕎麦がき」がかつて「蕎麦かいもち」と呼ばれていたと聞けば、この説があたっているようにも思われます。

一方、新潟や富山、長野などの方言では「掻餅」を「おはぎ」の意味で使う事例があるそうで、おはぎ説も根拠がないわけではありません。この場合、写真のような色かたちを想像したくなりますが、砂糖が高価な輸入品だった当時、今のような甘みはとても望めないでしょう。

「かいもち」の実体や味わいは謎に包まれていますが、僧たちにとっておいしい夜食だったことは間違いなさそうです。

参考:『宇治拾遺物語』日本古典文学大系27 岩波書店 1960年

本文は、裏千家淡交会会報誌『淡交タイムス』(2015年9月号)に掲載された記事を加筆修正したものです。

 

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