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「古典の日」からとっておきの情報や
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古典の日絵巻第十四巻「古典の魅力を伝え隊!~高校生が読む古典の世界~」
みなさん、こんにちは。
令和7年度は、私たち京・平安文化論ラボが、古典の日絵巻を担当いたします。私たち高校生の目線で読み解いた古典の世界を、1年間お楽しみください。
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11月号 ツンデレお姫様 葵の上
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10月号 教養と実践を融合した探究
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9月号 枕草子のゆかりの地へ
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8月号 紫の上との出会い
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7月号 源氏物語の輝く華
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6月号 古事記って何?
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5月号 光源氏の母 桐壺更衣
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4月号 京・平安文化論ラボの活動

氏名 : 安江 優
趣味 : 音楽を聴く
好きな時間 : 部活動(デザイン工芸部)の時間
好きなもの : マンガ
ツンデレお姫様 葵の上
葵の上は身分、容貌、さらには教養の高さについても申し分のない姫君です。プライドが高く、かたい性格で、今風に言うとツンデレのツンの要素しかない姫君です。私はそのツンツンしている葵の上が、かわいいなって思います。

光源氏と葵の上の初対面
葵の上の父は左大臣、母は桐壺帝の妹の大宮です。非常に身分が高い女性です。皇太子(将来帝になる人)と結婚するよう大切に育てられますが、左大臣と桐壺帝の政治的な思惑により、光源氏の正式な結婚相手となります。つまり、光源氏、葵の上ともに望んだ結婚ではありませんでした。
プライドが高く、なかなか光源氏に心を開こうとしませんでした。奥ゆかしい一方でかたいともとれる性格ゆえに、光源氏とすれ違ってしまいます。世間からは完璧な姫君として高く評価されていましたが、光源氏からは「うるはし」(端正で美しく欠点がない。ただ、整いすぎていて親しみが持てない)と評価されています。心がやすらぎ、愛嬌のある人を好む光源氏には魅力的に感じられなかったのかもしれません。
①の本文をご覧ください。「似げなく恥づかし」とあります。これは「自分と光源氏は似つかわしくない」という意味です。それは「すこし過ぐしたまへるほどに」すなわち自分が光源氏より4歳も年上であるからだとあります。
①すこし過ぐしたまへるほどに、いと若うおはすれば、似げなく恥づかしと思(おぼ)いたり。
①〈訳〉姫君は少し年上でいらっしゃるのに比べて、この君がまことにお若くていらっしゃるので、似つかわしくなく恥ずかしいと思っておいでになる。 (1)桐壺 P.48
一方、光源氏も②にあるように、「絵に描いた姫君のように」と葵の上については欠点がなく美しいとしています。でも、整いすぎていて親しみが持てないとあまり良い印象は持っていません。
②絵に描きたるものの姫君のやうに
②〈訳〉まるで絵に描いたお姫様のように (1)若紫 P.226
不仲
プライドが高いあまり光源氏に素直になれない葵の上。光源氏の心は離れ、紫の上へいってしまいます。③を見てください。光源氏が尋ねても表に出ようとしません。
③女君、例の、這ひ隠れてとみにも出でたまはぬを、
③〈訳〉女君は、例によって引っ込んだままで、すぐには姿をお見せにならないのを、 (1)若紫 P.226
そして④には、光源氏の気持ちが書いてあります。
④時々は世の常なる御気色を見ばや。たへがたうわづらひはべりしをも、いかがとだに問ひたまはぬこそ、めづらしからぬことなれど、なほうらめしう
④〈訳〉折々は、世間並の打ち解けたご様子を見たいものですね。堪えられぬほどわずらっておりましたのを、せめていかがとでもお見舞いくださらないのは、いつものことで珍しくはありませんが、やはり恨めしいことで (1)若紫 P.226
「時には世間並みに打ち解けた夫婦らしい言葉をお聞きしたいものです。」とあるように、互いに心を開かない様子が続きます。葵の上は光源氏が尋ねても隠れて表に出ようとしません。このように、互いに心を開かない様子が二人のシーンの大半を占めています。

車争い
そんな中、車争いという事件が起こります。葵の上は乗り気ではなかったのですが、光源氏の舞を見にいくことになりました。そこで、葵の上の従者と、光源氏の愛人である六条御息所の従者が車を止める場所を巡って争い、お忍びできていた六条御息所の姿をあらわにして辱めてしまいます。ここから葵の上は、後に六条御息所のもののけに苦しめられ死に追いやられることとなります。⑤をご覧ください。
⑤ものに情(なさけ)おくれ、すくすくしきところつきたまへるあまりに、みづからはさしも思さざりけめども
⑤〈訳〉惜しいことに何かにつけて情味が乏しく、無愛想なところがおありになるあまり、ご自分ではそうとまでもお考えにはならなかったのだろうけれど、 (2)葵 P.26
この事件を聞いた光源氏は葵の上に対して、「あなたは情けがなく、無愛想である」と葵の上を批判します。「情おくる」は、物事に対するこまやかな情愛に欠ける、という意味です。
葵の上出産
ここまで一切心を通い合わせていない葵の上と光源氏ですが、それは葵の上の出産によって大きく変わります。⑥をご覧ください。
⑥年ごろ何ごとを飽かぬことありて思ひつらむと、あやしきまでうちまもられたまふ。
⑥〈訳〉この年ごろ、このお方のどこに不足があると思っていたのだろうと、我ながらどうしたことか、じっと見守らずにはいらっしゃれない。 (2)葵 P.45
出産のため横たわっている痛々しくも美しい葵の上を見て、「長年どうして彼女のことを不満に思っていたのだろう」と光源氏は考えます。そして、自分は初めて葵の上の魅力にふれたのかもしれないと息を呑みます。さらに葵の上に対して「元気になられて、お戻りになってください。」という声をかけます。
また、葵の上も、そう言って去っていく光源氏に、⑦にあるように、いつもよりは目をとめて見送ります。
⑦いときよげにうち装束きて出でたまふを、常より目とどめて見出だして臥したまへり。
⑦〈訳〉まことに美々しく装束を着けてお出ましになるのを、女君は、いつもとはちがって、じっとお目を注いで見送りながら臥していらっしゃる。 (2)葵 P.45
この時初めて2人は、純粋に相手のことを考えてお互いを見たのだと思いました。ただ、葵の上に関してはここで光源氏のことをじっと見つめるだけでなく、何か一言返せていたらもっと良かったのにと私はもどかしく感じました。光源氏の優しい声かけに、優しさで返せないところも葵の上らしいと思います。
光源氏の留守中に、葵の上急逝
幸せも束の間、葵の上が亡くなってしまいます。六条御息所の生き霊に殺されてしまいます。光源氏は大変ショックを受けます。⑧にあるように、光源氏は「今までたくさん浮気をしてしまった。葵の上は自分のことを嫌ったまま亡くなられてしまった。」と後悔し、葵の上を恋しく思います。
⑧などて、つひにはおのづから見なほしたまひてむとのどかに思ひて、なほざりのすさびにつけても、つらしとおぼえられたてまつりけむ、世を経て疎く恥づかしきものに思ひて過ぎはてたまひぬる
⑧〈訳〉どうして、しまいには必ずこちらの気持をお分りいただけようと気長に構えて、気まぐれな浮気ごとにつけても、恨めしく思われ申すようなことをしたのだろう。あのお方は長い年月にわたって、このわたしを、よそよそしく気づまりな夫と思ったまま亡くなっておしまいになったのだ (2)葵 P.48
光源氏の悲しむ様子は、生前はそれほど愛していなかったのにと、自分も周りも驚くほどでした。このように、葵の上の死後、光源氏の葵の上に対する愛情は生前よりもむしろ強くなります。
私にとっての葵の上
私は、自分が思っている以上に周りから大人しく静かに見られることが多いです。確かに私は自分の考えや気持ちを人に話すのが得意ではありません。しかしその印象を変えるために無理に明るく振る舞うことは、難しく感じます。
葵の上も光源氏からは情けがない冷たい人、周りからは身分が高く完璧な姫君と思われていたことで、益々光源氏に甘えたり自分を見せたりすることができなかったのかもしれないと思いました。私は、あとで後悔しないように、思うことは素直に、相手に伝えていこうと思いました
葵の上は、現代を生きる私たち一人一人にとって、どこか共感でき、応援したくなる人物ではないかと思います。

※本文と訳は、小学館『新編日本古典文学全集』に準拠しています。なお、引用に際しては(巻、ページ数)で記載しました。
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