「四季草花草虫図屏風」(蝶・蜻蛉)鈴木其一「春秋草木図屏風」

俵屋宗達「双犬図」※作品画像はすべて部分、細見美術館蔵

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「古典の日」からとっておきの情報や
こぼれ話などをお届けします。

古典の日絵巻第十四巻「古典の魅力を伝え隊!~高校生が読む古典の世界~」

みなさん、こんにちは。
令和7年度は、私たち京・平安文化論ラボが、古典の日絵巻を担当いたします。私たち高校生の目線で読み解いた古典の世界を、1年間お楽しみください。

 

京・平安文化論ラボ

嵯峨野高校では、2年次に各自が選んだラボに所属して探究活動を行っています。数学、理科、法学等。その中のひとつが「京・平安文化論」ラボです。文学研究はもとより、若者の古典離れを課題とし、その課題を解決するためにどうすればよいかを探究しています。その活動の一環として企画・運営したのが『源氏物語』ゆかりの地を訪ね歩く「ちゅう源氏と巡る 源氏物語 京都スタンプラリー」です。スタンプ設置場所は、下鴨神社や上賀茂神社、野宮神社や廬山寺など京都市内全13カ所です。また、『源氏物語』の登場人物をイメージしたお菓子を私たちがデザインし、地元企業にご協力いただいて製造・販売するなど、古典に親しみ、その魅力を発信する様々な取組をしています。

6月号を担当したのは
氏名    : 安達 一花
趣味    : 神社・寺巡り
好きな時間 : 家でゆっくりしている時間
好きなもの : 古事記
将来の夢  : 長生きすること
6月号
古事記って何?

 みなさん、こんにちは。私は古事記を紹介します。みなさんは古事記を知っていますか?私は古事記が大好きです。
 古事記に何が書いてあるかというと、いつ何が起こったとかが書かれているわけではなくて、日本がどうやってできたかということが、神話や伝説を交えて物語っぽく書かれています。古事記の魅力は、たくさんのエピソードから、さまざまな形の愛が感じられるところにあると思います。
 古事記とは、712年に成立した、日本最古の歴史書です。天武天皇の指示によって作り始められ、稗田阿礼(ひえだのあれ)という優れた記憶力を持つ語り部が覚えた話を、太安万侶(おおのやすまろ)が分かりやすく書き起こして編纂しました。
 歴史書といっても、単に国の歴史が書かれているのではなく、神話や伝説を交えて日本の成り立ちや天皇の実績がまとめられています。全体の構成は、上巻・中巻・下巻の三つに分けられており、上巻が大部分を占めています。(上巻は日本の神話、中巻は神々と天皇の話、下巻はほとんど天皇の系譜)

 ここで、いくつかお話を紹介したいと思います。

 

スサノオノミコトの母への愛 【スサノオはマザコン!?】
 一つ目は、スサノオノミコトの母への愛の話です。
 ここでは、スサノオノミコトとイザナギノミコトという神が登場します。(イザナギはスサノオの父で、母親はやけどで死んでしまいました。)
 父親であるイザナギがスサノオに対して、海原を治めるように指示します。しかし、スサノオは死んだ母を忘れられず、泣き喚き、イザナギに従いません。スサノオの泣く様子は山や河、海を枯らして、世界の秩序が失われるほどでした。そこで、イザナギが、スサノオに、なぜ泣いているのか尋ねると、死んでしまった母に会いたくて泣いているのだと答えました。

 「僕(やつかれ)は、妣(はは)が国の根之堅洲国(ねのかたすくに)に罷(まか)らむと欲(おも)ふが故に、哭(な)く。」とまをしき。

〈訳〉「私は、亡き母の国の根之堅州国に参りたいと思って泣いているのです」と申し上げた。古事記 P.55

 死んでしまった母親が好きすぎて、どうしても会いたいという理由で泣き喚くスサノオ。結局、スサノオは追放されてしまうのですが、亡くなった母親を恋しく思うという話は、源氏物語の中で、幼い頃に亡くした母の面影を求めて恋愛をする、光源氏と似ている部分があると思いました。
 

オオナムチとスサノオノミコト【娘は渡さん】
 二つ目は、オオナムチという神と、さきほどのスサノオノミコトという神が登場します。
 ここでは、スサノオのもとに、スサノオの娘が、婚約者であるオオナムチを連れてやってくる場面です。父であるスサノオは、娘をそう簡単に渡すものか、とオオナムチに過酷な試練を課します。最初は…

 即(すなは)ち喚(め)し入れて、其の蛇の室(むろ)に寝(い)ねしめき。

〈訳〉すぐに呼び入れて、蛇の室に寝させた。古事記 P.81

 なんと、スサノオは大量の蛇がいる密室へオオナムチを案内します。次に…

 亦、来(こ)し日の夜(よ)は、呉公(むかで)と蜂との室(むろ)に入れき。

〈訳〉再び大穴牟遅神(おおあなむじのかみ)が来た日の夜には、須佐之男大神は大穴牟遅神を百足と蜂の室に入れた。古事記 P.81

 スサノオはオオナムチをムカデだらけの部屋に案内します。次に、スサノオは野に矢を放ち、オオナムチに取って来るように言いました。

 故、其(そ)の野に入(い)りし時に、即(すなは)ち火を以(もち)て其の野を廻(めぐ)り焼きき。

〈訳〉それで、その野に大穴牟遅神(おおあなむじのかみ)が入ると、直ちに火でその野の周囲を焼いた。古事記 P.82

 スサノオはオオナムチの周りに火を放つ!
 そして最後の試練。スサノオはオオナムチを家に招き、髪の毛のシラミを取らせます。しかしスサノオの頭には…

 故爾(かれしか)くして、其の頭を見れば、呉公(むかで)、多(あま)た在り。

〈訳〉それで、大穴牟遅神が須佐之男大神(すさのおのおおかみ)の頭を見ると、百足がたくさんいた。古事記 P.83

 なんとなんと、スサノオの頭にはシラミではなくムカデが大量にいたのです。オオナムチはムカデを噛み潰すふりをして、木の実と赤土を噛み砕いて吐き出し、スサノオに気づかれずにやり過ごしました。結局、スサノオの娘とオオナムチは、スサノオが居眠りしている間に駆け落ちしてしまいます。スサノオは最終的には結婚を認めましたが、娘を大事に思い、娘はそう簡単には渡さない!という気持ちになる親がいるのは、今も昔も同じなのだと思いました。(ちなみに、ここで登場するオオナムチは、のちにオオクニヌシと名前を変え、再び物語に登場します。また、オオクニヌシは、島根県にある出雲大社の御祭神です。)

 

オトタチバナヒメとヤマトタケルノミコト【自分の命と引きかえに…】
 最後は、ヤマトタケルノミコトと、その妻のオトタチバナヒメという人物が登場します。
 ヤマトタケルが東の地方へ征伐に行くために海を渡ろうとしますが、海の神が荒波を起こしたため、船で渡ることができませんでした。

 爾(しか)くして、其の后(きさき)、名は弟橘比売命(おとたちばなひめのみこと)、白(まを)ししく、「妾(あれ)、御子(みこ)に易(かは)りて、海の中に入(い)らむ。御子は遣(つかは)さえし政(まつりごと)を遂げ、覆奏(かへりことまを)すべし」とまをしき。

〈訳〉その時、その后、名は弟橘比売命が申して、「私が、御子の代りとなって、海の中に入りましょう。御子は、遣わされた任務を果して、復命申してください」と言った。古事記 P.227

 オトタチバナヒメが海に身を沈めると、荒波は自然に静かになって、ヤマトタケルの乗った船は先に進むことができました。そしてそれから七日後に、オトタチバナヒメのくしが海辺に流れ着き、ヤマトタケルはそれを拾いとって、御陵を作って納め置きました。
 自分の命を犠牲にしてでも、夫を助けるオトタチバナヒメの行動から、深い夫婦愛が読み取れ
ます。

 

最後に…
 今回、三つのエピソードを紹介しましたが、古事記には、他にも、ドラマチックな話、感動できる話がたくさんあります。古事記は、難しい歴史書というイメージがあるかもしれませんが、実際はとても面白くて、笑える話がたくさんあります!わかりやすいマンガや、面白く説明している動画もあるので、ぜひ読んでみてほしいです。

 

※本文と訳は、小学館『新編日本古典文学全集』に準拠しています。なお、引用に際しては(巻、ページ数)で記載しました。

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