「四季草花草虫図屏風」(蝶・蜻蛉)鈴木其一「春秋草木図屏風」

俵屋宗達「双犬図」※作品画像はすべて部分、細見美術館蔵

過去の受賞者Prizewinner

第2回「古典の日文化基金賞」授賞式

 

日時:令和4年9月2日(金)午後1時~3時30分
場所:京都コンサートホール アンサンブルホールムラタ
      ※画像をクリックすると大きい画像が表示されます。

     左より【文学・思想分野】  特定非営利活動法人知里森舎
                   一般社団法人札幌大学ウレパクラブ
        【伝統芸能・音楽分野】淡路人形座
        【美術・生活文化分野】クリストフ・マルケ
        【未来賞】      宇治っ子朗読劇団☆Genji
                   京都府立鳥羽高等学校披講研究部
                   津屋崎臨海学校実行委員会

 

◆古典の日燦讃と古典の日宣言

 演奏:大谷祥子と六条院楽坊
 箏:大谷祥子 西原梨沙 大谷掬波 尺八:饗庭凱山 ピアノ:藤林由里
 バイオリン:平山美萌 チェロ:徳安芽里 鳴り物:祝丸
 宣言:鳥内咲良 吉川輝竜(宇治っ子朗読劇団☆Genji)

 

◆登壇者のご紹介

 右前列中央より
          彬子女王殿下(古典の日文化基金賞顕彰委員会名誉総裁)
  来 賓:都倉俊一(文化庁長官)
  顕彰委員会委員 西脇隆俊(京都府知事)
     〃    門川大作(京都市長)
     〃    松村淳子(宇治市長)
     〃    塚本能交(京都商工会議所会頭)
  顕彰委員会会長 村田純一(古典の日推進委員会会長)
 2列目
  選考員会委員  井上八千代(京舞井上流五世家元)
          葛西聖司(古典芸能解説者)
          東儀秀樹(雅楽師)
          冷泉貴実子((公財)冷泉家時雨亭文庫常務理事)
   〃 オブザーバー 髙田行紀(文化庁地域文化創生本部事務局長)
   〃 副委員長   朧谷壽((公財)古代学協会理事長)
 3列目
  候補者情報調査会座長 山本壯太(古典の日推進委員会アドバイザー)
     〃    委員 栗原祐司(京都国立博物館副館長)
     〃    委員 小林一彦(京都産業大学文化学部教授)
     〃    委員 田口章子(京都芸術大学教授)
     〃    委員 濱崎加奈子(京都府立大学準教授)
 受賞者 特定非営利活動法人知里森舎 木原仁美
     一般社団法人札幌大学ウレパクラブ 本田優子 岩谷玲奈 今井とわ 岡田勇樹
     淡路人形座 正井良德
     クリストフ・マルケ
     宇治っ子朗読劇団☆Genji 鳥内咲良 吉川輝竜
     京都府立鳥羽高等学校披講研究部 鎌田美緒
     津屋崎臨海学校実行委員会 山下瑠璃

 

◆おことば
 古典の日文化基金賞顕彰委員会名誉総裁 彬子女王殿下

 古典とは古い時代につくられたものでありながら、それを愛した人たちの手と思いによって現代にまで伝えられてきたもの。
 古典の日との縁の深い小林先生と百人一首についてのお話になった時、千年以上も前の人が作った歌を分解して当てるというゲームの形として現代までつないでいるのは日本ぐらいとうかがいはっとしました。マザーグースの童謡などは歌い継がれながら、分解してゲームにして覚えるというものではありません。
 百人一首は、古典への入り口として学校で指導されることも多く、お正月に家庭で楽しむ遊びとしても定着しています。このように希有な古典文化を持っているのは、日本だけだということをもっと誇りに思わねばならないと思いました。日本人の生活に古典は生き続けています。宇治川や小倉山、貴船など、歌枕として和歌に読み込まれた名所旧跡が日本全国にあります。
 日本人は知らず知らずのうちに歌枕を巡る旅をし続けているといっても過言ではありません。名所に築かれたゆかりの歌碑の和歌を読み、その時代に思いをはせ、景色を眺めると、同じ景色がまた違って見えることでしょう。
 古典の日文化基金賞が、遠くにあるように感じる古典にも、意外と近くにある古典にも手を伸ばしてくださるきっかけになっていくことを願いつつ、私よりのご挨拶といたします。

 

◆主催者挨拶
 古典の日文化基金賞顕彰委員会会長 村田純一

 第2回を迎えるにあたり、審査の先生方から素晴らしいご提言をいただき、若者たちの活動を対象にした「古典の日文化基金未来賞」を新設しました。これは、一般の候補者と同じ土俵で、学生や、伝統芸能・伝統工芸に励む若者たちを選ぶのは大変難しく、未完成であっても、古典に対する情熱にあふれた若者たちを励ますための特別賞です。
 今年は、候補者総数88件の中から候補者情報調査会、選考委員会の先生方の1年間にわたる調査、情報収集と審査により、6団体、1個人の栄えある受賞者が選ばれました。受賞された皆様は、それぞれ「親しみやすい古典の在り方」を目指すこの賞の理念を体現し、優れた活動を続けてこられました。この賞が皆さまの励みとなることを願い開会の挨拶とします。

 

◆来賓祝辞
 文化庁長官 都倉俊一

 コロナ禍で、長い間休んでいた各種イベントが全国から再開されたという嬉しいニュースが報じられ、トンネルの向こうの希望の光が見えてきました。第2回古典の日文化基金賞は、国際的また、次世代育成の観点というテーマが主な目的と聞いています。この受賞をきっかけに、古典の持つ面白さを発信され、地域の古典文化の振興につながることを期待しています。令和5年3月に文化庁が京都に移転します。京都は日本の中で東京以上に世界ブランドがある街です。京都から世界に向かって日本の文化芸術、音楽、演劇、映画、クールジャパンと呼ばれる日本の大衆文化を発信するという大きな目標があります。日本語は国際言語ではないので、日本の文学を海外に紹介するのは大きなハードルがあるが、近年日本語を理解する若者が非常に増えているという世界中に起こる現象は、大変うれしいニュースです。文化庁は、地味ながら毎年、日本の文学、文芸の小説とエッセイの翻訳コンクールを開催し、主に英語圏で、今年はスペイン語圏も含めて、現地の言葉に翻訳した300以上の応募がありました。中でも、アメリカ人のグラント・ロイド君(第6回JLPP翻訳コンクール最優秀賞)は、弱冠21歳。来日経験もなく、向田邦子さんのエッセイを見事に英語に翻訳して非常に高い評価を受けました。日本の文芸を世界に発信するのは、文化庁の大きな仕事です。近い将来、課題の中に古典も入れていきたい。スペイン語に訳された紫式部はどういうふうに表現されるのかは非常に興味深いところです。日本の叡智であり、長年の知恵が詰まっている古典が世界に発信されることを夢見ながら、文化庁は努力します。受賞された皆さんの取り組みを通じて、古典のおもしろさ、魅力に気づくきっかけとなり、古典の入口への橋渡しとなることを願い、世界でも稀にみる我国の豊かな古典文化の研究・普及の取り組みを顕彰する基金賞と「古典の日」の取り組みがより一層、全国に広がっていくことを期待します。

 

◆贈賞式
 【文学・思想分野】共同受賞
          特定非営利活動法人知里森舎 知里幸恵
          銀のしずく記念館館長 木原仁美

◇受賞理由

銀のしずく降る降るまわりに、金のしずく降る降るまわりに
知里幸恵『アイヌ神謡集』より

 アイヌの叙事詩ユーカラを記録した『アイヌ神謡集』を著し、19歳で夭折した知里幸恵を顕彰し、機関誌の発行、講演会などを主催してアイヌ伝統文化の継承発信に貢献。平成22年には、「知里幸恵 銀のしずく記念館」を開設。
 『アイヌ神謡集』序文の「言葉の存続は民族の存続そのもの」という知里幸恵の思いは、100年後の今も生き続けている。

◇受賞のことば
 この度は、「古典の日文化基金賞」の栄誉に預かり、心より御礼申し上げます。知里森舎は、登別市に生まれたアイヌの少女、知里幸恵の業績を紹介する活動をしています。幸恵は、アイヌで初めてアイヌの物語を文字化した『アイヌ神謡集』の著者として知られています。知里幸恵没後100年という節目の年にこのような賞をいただけて大変光栄です。また、来年2023年は生誕120年、『神謡集』刊行100年に当たり、スタッフ一同、アイヌ文化に関心を持っていただけるような活動に取り組んでいるところです。受賞をきっかけに皆さんに知里幸恵のことを知っていただけたら幸いです。

 

 【文学・思想分野】共同受賞
          一般社団法人札幌大学ウレパクラブ
          代表理事 本田優子
          岩谷玲奈 今井とわ 岡田勇樹

◇受賞理由

ウレパ!北の大地からほっこりしたメッセージを世界へ

 「育てあう」というアイヌ語「ウレパ」を冠して、2010年の結成以来、北海道の各地をめぐっての聞き取りや記録映像などを活用した伝承古謡の復元などに積極的に取り組んできた。
 アイヌの若者たちのこれからを支える「ウレパ奨学生制度」を運用するなど、ともに育てあうという団体設立の意を体し、地域と一体となった活動を今後とも続けていただきたい。
『アイヌ神謡集』序文の「言葉の存続は民族の存続そのもの」という知里幸恵の思いは、100年後の今も生き続けている。

◇受賞のことば
 このたびは、栄誉ある賞を頂戴し大変感激しております。しかも知里幸恵さんを顕彰し、その功績を社会に発信されてきた知里森舎さんとの共同受賞ということを、なにより誇らしく思います。今年没後100年を迎えられた幸恵さんは『アイヌ神謡集』序文で次のように述べられました。「二人三人でも強いものが出て来たら、進みゆく世と歩をならべる日も、やがては来ましょう」。私たち札幌大学ウレパクラブは今回の受賞を機に、幸恵さんの思いを受け継ぐとともに、新たな時代を拓くために一層努力することをお誓いしたいと思います。本当にありがとうございました。

 

 【伝統芸能・音楽分野】淡路人形座
            公益財団法人淡路人形協会理事長 正井良德

◇受賞理由

全国各地に伝わる多様な人形芝居は郷土の誇り

 戦後存続の危機にあった淡路人形芝居を守り育て、常設館での興行のほか、国内海外での公演、ワークショップでの子供達や後継者団体への指導など人形浄瑠璃の普及発展に努めてきた。
 2021年、視覚的な仕掛けを配した新作「戎舞+」を上演。伝統芸能に新たな魅力を加える意欲的な試みに今後とも期待したい。

◇受賞のことば
 このたび、淡路人形座が栄えある「古典の日文化基金賞(伝統芸能・音楽分野)」受賞の栄誉に浴しましたことは、至上の喜びであります。室町末期、神事芸能としての人形操りが淡路島に伝わり、三社神楽の式を宮中に奉演して、正親町天皇から「綸旨」を賜り、従四位下に叙せられたのが、淡路人形の元祖・引田源之丞でした。三業が結びついて人形浄瑠璃となるや、江戸中期から昭和にかけて、京大坂で作られた作品をもって島内各座が全国巡業し、結果各地に人形浄瑠璃が根付きました。その保存会への協力や後継者指導等の活動が評価されうれしく存じます。この受賞を励みとして、淡路人形浄瑠璃の普及・振興に一層邁進していく所存であります。

 

 【美術・生活文化分野】クリストフ・マルケ
             (日本美術史家・フランス国立極東学院教授・京都大学人文科学研究所特任教授)

◇受賞理由

北斎の絵本がマンガの起源と言われているが、マンガ的な図像の描写としては、
滑稽な民画の大津絵が元祖と言って差し支えないだろう
-クリストフ・マルケ-

 フランス国立東洋言語文化大学日本学部長、日仏会館日本研究センター所長などを歴任し、江戸・明治の絵画を中心に日本の伝統美術を広く欧米各国に紹介してきた。近年は日本でも忘れられかけてきいた大津絵の魅力を再発見し、散逸した大津絵を調査研究し数百点の作品の存在を確認するなど、日本の伝統文化の世界への懸け橋として貢献した。

◇受賞のことば
 この度、古典の日文化基金賞を受賞させて頂き、誠に光栄に思います。33年前の博士課程の時に東京大学に留学して以来、教育、研究、出版、展覧会を通して日本美術の素晴らしさをフランスに伝えるために、地道に努力を重ねてまいりましたことを表彰して頂き、心より感謝いたします。恩師である故ジャン=ジャック・オリガス先生をはじめ、東大で大変お世話になりました高階秀爾先生、また日本の研究者の方々に心より御礼を申し上げます。この賞によって、作り手の名前さえ知られていない、江戸時代の代表的な民画である大津絵が、日本の古典文化の一側面として認められるようになったことを嬉しく思います。

 

 【未来賞】宇治っ子朗読劇団☆Genji
      代表 鳥内咲良・吉川輝竜

◇受賞理由

子供たちから子供たちへ 語りつがれる古典

 「古典の日に関する法律」の制定を記念して、宇治市文化センターにおいて『宇治十帖』の舞台である宇治市の小中学生・高校生により結成された。『源氏物語』を平安装束に身を包み役柄を分担して演じる朗読劇を発表し、市民に親しまれている。
 これからも次世代の子供たちに楽しく古典の魅力を伝えていって欲しい。

◇受賞のことば
 このたびは「古典の日文化基金未来賞」の栄えある第1回授賞に私たち「宇治っ子朗読劇団☆Genji」の活動をご選考いただきありがとうございます。朗読劇団結成10周年を迎えた節目の年に、このような素晴らしい賞を頂くことができ、こんなに嬉しいことはありません。
 私たちは、劇団名にもあるように「源氏物語」の最後の十帖の舞台になっている宇治の小中学生・高校生が集まって宇治市文化センターで活動していますが、活動を通じて平安貴族の煌びやかな生活や感情に思いをはせ、宇治川の水音に「浮舟」の心境を重ねています。これからも私たちの活動を多くの人に発信し、「源氏物語」を未来へ伝えていきたいと思っています。

 

 【未来賞】京都府立鳥羽高等学校披講研究部
      部長 鎌田 美緒

◇受賞理由

やまとうたは人の心を種として、よろづの言の葉とぞなれりける
『古今和歌集』仮名序より

 冷泉流歌道の指導をうけ、作法に則って詠まれた和歌を、宮廷衣装を身に着けて古式ゆかしく唱和する「披講」を学校内外で披露するなど、日本古来の伝統美である和歌を体現継承している。
 「全国高校生伝統文化フェスティバル」へ出演するなど、活動は広く認知されており、今後とも日本の古典文化を正しく理解し、次世代に継承する活動を期待する。

◇受賞のことば
 披講研究部では、和歌を通して伝統文化に触れるというなかなか経験できないことをしています。練習では、始めはうまく息が合わないのですが、回を重ねるごとに声の重なりが美しくなり、和歌の響きを楽しむことができます。歌会では、鑑賞している方々に歌会の間だけは宮廷にいるかのように感じていただくために、厳かな雰囲気を崩さないよう意識して取り組んできました。披講研究部で、和歌を通して様々な人と心から繋がることができたことを嬉しく思うとともに、この度、このような賞を受賞させていただいたことを大変光栄に思います。これからも伝統文化を繋いでいく一員として練習に励みたいと思います。

 

 【未来賞】津屋崎臨海学校実行委員会
      第28回・29回実行委員長 山下瑠璃

◇受賞理由

交わりの少なくなりぬ時なれどまこと言葉で心つながる
-福岡教育大学 幸地梨香-

 福岡教育大学の学生を中心に1993年の発足以来30年にわたり、小学生を対象に臨海学校を開き、体験学習の感動を短歌に表現する活動を続けてきた。「豊かな言葉は豊かな心を育む」をモットーに 企画からすべてを大学生で運営。
  次世代を担う子供たちの豊かな心を日本の伝統文化によって育もうと取り組む活動を応援したい。

◇受賞のことば
 この度は、「古典の日文化基金賞未来賞」という栄えある賞を賜り誠にありがとうございます。
津屋崎臨海学校実行委員会は、企画、運営から全て学生主導で行っており平成5年の開始以来今年で30年を迎えます。そのような津屋崎臨海学校の節目の年にこの栄ある賞を頂けたことをとても光栄に思います。

 これからも和歌創作を通して子供たちに昔から日本が大切にしてきた心を伝え、また豊かな心を育んでいくことに尽力して参ります。そして企画、運営を行う私達学生自身もこれからより和歌、日本の歴史というものに親しみ、学びを深めていくことに励んでまいります。この度は誠にありがとうございました。

 

 【古典の日制定10周年記念特別表彰】東儀秀樹(雅楽師)・東儀典親

◇受賞理由

雅楽は単なる音楽芸術ではなくその精神性、日本人の神や仏、
あるいは自然に対する敬意、宇宙観などを含めた様式の美学
-東儀秀樹-

 宮内庁雅楽部を退任ののち、雅楽師として、雅楽を国民のだれもが親しみやすい音楽として広めた功績者であり、日本人の心のよりどころとしての古典を次世代の若者に熱く語る「古典の伝道師」ともいえる活動を子息典親氏と共に工夫され、「古典の日」の推進にも大いに寄与されました。
 親子による伝統文化継承実践者のお二人に、古典の日制定10周年を記念して…。

◇受賞のことば
 以前「雅楽の世界は東儀秀樹前か東儀秀樹後で語ることができる」と、ある研究者が言っていたのを耳にしたことがあります。とてもおこがましいとは思いますが、自覚もあるのです。世界に誇れるものであるのにあまりに知られていない雅楽をなんとか知らせたいと、誰もしなかったさまざまな手段でチャレンジしてきました。世の中が動いて変わっていく実感とともにある道でした。だからこそその表現や挑戦には責任と誇りを感じ続けることができました。今では次の世代と言える息子も同じように取り組み始めています。このような賞をいただいたことがさらなる多くの方々の興味や向上心への刺激となり、より一層文化への貢献ができれば幸いです。

 

※受賞者の皆さんには、盾と分野毎に副賞100万円が授与されました。【未来賞】の副賞は30万円。

 

◆講評
 朧谷壽(選考委員会副会長)

 昨年、第1回の審査を終えて、学生を中心とした若い世代の活動が、一般社会人と同じレベルで比べられると受賞しがたいのではないかとの何人かの委員の方から提言を受け、今回から新たに「古典の日文化基金未来賞」を新設した。これは昨年の芳賀徹記念賞を継承するもので、古典の日推進活動の大きな柱である「次世代の若者たちに、古典のすばらしさを継承してゆきたい」という目的に沿った大きな前進と言えます。
 審査は、昨年同様、候補者情報調査会による第一次審査で、受賞された3分野と新設された未来賞の候補者の絞り込みを行いました。審議された候補者数は文学・思想分野で18件、伝統芸能・音楽分野で33件、美術・生活文化の分野で10件、未来賞27件、合計で88件でした。この中には、第1回で受賞が叶わなかった優れた候補者として継続審議されたものも含まれ、さらに第2回公募に応募してきたもの、この1年間の新聞報道などで話題となったものを事務局でリストアップしたもの、そして候補者情報調査会委員による推薦が含まれます。
 この第1次審査で各分野毎に絞り込んだ候補者について、オンラインを併用して開催した選考委員会で審議し、結果は本日の表彰式で表彰理由と共に公表したとおりです。選考過程では、活発な議論が交わされ、受賞者を決定するのが困難なほど競り合いましたが、これは喜ぶべきことです。残念ながら受賞に至らなかった2位、3位の候補者の皆さんも優れた古典活動をされています。
 特に、新設された未来賞では受賞者を1件にしぼることがたいへん困難で、またできるだけ多くの若者たちを励ましたいという思いから、村田会長の英断を得て、3件を受賞者としました。
 文化基金賞が励みとなり、それぞれの分野で、古典文化の研究・普及・啓発にご活躍をされます様、皆様に期待しています。
 また、永年に渡って日本古典音楽の神髄ともいえる雅楽の普及啓発活動に活躍され、古典の日推進運動やフォーラムでもたびたびご出演いただいた東儀秀樹さん、典親さん親子に対して、古典の日制定十周年を記念して会長から特別表彰を贈らせていただきました。
 今後も古典に親しみ、この基金賞に応募していただきたいと思います。

 

◆座談会「つなぐ ~井上八千代さん安寿子さんをお迎えして~」
 井上八千代(京舞井上流五世家元)
 井上安寿子(京舞井上流次代後継者)
 聞き手 葛西聖司(古典芸能解説者・元NHKアナウンサー)

 京舞井上流五世家元井上八千代さんとご息女である京舞井上流次代後継者の安寿子さんお二人をお迎えして、葛西聖司さんが京舞について、継承についての興味深いお話を伺いました。
 安寿子さんは、先代の八千代さんが88歳のお祝いの時に初めて舞台を踏み「七福神」を舞いました。その時の後見はひいおばさまの八千代さん。猿回しのように後ろから合図を送られ、舞う姿がNHKで放映されたというなんともほほ笑ましいエピソード。
 京舞はおいど(お尻のこと)を下ろすのが基本姿勢で、最初に嫌というほど叩き込まれます。先代の八千代さんはものを語るということをしない方で、なんでも「おなかどす」の一言で終わるそうです。おなかという言葉に秘められるのは、基本姿勢、呼吸法のこともあり、作品内容を腹でつかむという、すべてを含んだ上での腹のことで、たいへん意味深い言葉です。
 皆さんが井上流京舞で頭に思い浮かべるのは、祇園の芸妓さん、舞妓さんの華やかな舞。明治5年、京都博覧会“都をどり”で三世八千代氏が舞奴と芸奴の群舞として考案し、現在、五世八千代氏が継承しています。
 安寿子さんは、京舞を継承する心構えとして、舞台に立つ上で何が大切なのかを学ぶため、大学で舞台の裏方の勉強をしてきました。その時に出雲の石見神楽を目にし、暮らしの中に土地の香りがする地に住む大人から子供までが楽しめる伝統芸能の力に魅了されます。京舞は、お座敷や舞台に立つことから観客との間に境界線のようなものを感じていたそうです。安寿子さんはこれからどのように継承されていかれるのかが楽しみです。
 一方、五世八千代さんは、女性が主流となる京舞の期待の星としてこの世界に入られました。宝塚に宝塚音楽学校、歌舞伎に歌舞伎研修所をあるように、京舞祇園甲部には、お稽古場でもある女紅場学園が学校としてあります。ここは舞だけでなく、お茶、お花、能楽、囃子、邦楽の演奏を学ぶところで、後継者を育てるため、八千代さんはここで指導されています。
 先代の八千代さんと共演されたことは少なく、安寿子さんはおかあさんの襲名の時にひいおばあさまの後見をつとめ、同じ舞台に立つことを味わいました。安寿子さんの初舞台の後見がひいおばあさま。そして今度は安寿子さんが後見を、脈々と京舞がつながれています。
 祇園だけだはなく、京都には花街が5つあります。コロナでお稽古ができず、共有感、人の稽古を見られないので先輩の芸を学ぶということがしにくい状況でした。また、髪結さんや飾り職人さんという日本の伝承文化を支える職人さんが少なくなるという危機感をこの世界を誇る京都でさえ起きているということを知ってほしい。途絶えることなく守り続けてほしいと願われています。
 安寿子さんは、苦しい状況にあっても止まらずに進んでいくことが大事で、京舞のことしかできないし、コツコツやるしかできないので、止まらずにとりあえず自分の道を進んでいくしかない、と日々稽古と舞台に精進されています。
 先達が若い方々に種をまくことが大切で、若い方々の力がこれからの古典を支えていくということになると強く思いました。
 京舞もいろいろな時勢の厳しさの中で、八千代さんから安寿子さんへ、日本の文化として守り継がれています。

第1回「古典の日文化基金賞」授賞式

 

日時:令和3年9月3日(金)午後1時~3時30分
場所:京都府立府民ホールアルティ

右前列中央より
 来 賓:彬子女王殿下(古典の日文化基金賞顕彰委員会名誉総裁)
     伊吹文明(衆議院議員)
     都倉俊一(文化庁長官)
     顕彰委員会顧問:中西進(京都市立芸術大学名誉教授)
     木津川計(立命館大学名誉教授)
 来 賓:芳賀満(東北大学教授 ※故 芳賀徹氏ご子息)
右後列中央より
 橋本 夏果(第12回古典の日朗読コンテスト【中学・高校生部門】大賞者
 候補者情報調査会委員:濱崎加奈子(京都府立大学準教授)
            田口章子(京都芸術大学教授)
            小林一彦(京都産業大学文化学部教授)
            栗原祐司(京都国立博物館副館長)
左前列中央より
 選考委員会副委員長:朧谷壽((公財)古代学協会理事長)
 顕彰委員会委員:塚本能交(京都商工会議所会頭)
         松村淳子(宇治市長)
         門川大作(京都市長)
         西脇隆俊(京都府知事)
 顕彰委員会会長:村田純一(古典の日推進委員会会長)
左後列中央より
 選考員会委員:葛西聖司(古典芸能解説者)
        檀ふみ(俳優)
        東儀秀樹(雅楽師)
        熊倉功夫(MIHO MUSEUM館長)
        井上八千代(京舞井上流五世家元)
        冷泉貴実子((公財)冷泉家時雨亭文庫常務理事)

 

◆受賞者の皆さん

左より【文学・思想分野】角田光代(作家)
   【伝統芸能・音楽分野】沖縄伝統組踊「子(しー)の会」
   【美術・生活文化分野】山本茜(截金ガラス作家)
   【芳賀徹記念・古典の日宣言特別賞】ツベタナ・クリステワ(国際基督教大学名誉教授)

 

◆「古典の日宣言」
 橋本夏果(第12回古典の日朗読コンテスト【中学・高校生部門】大賞受賞者

 

◆主催者挨拶
 古典の日推進委員会会長 村田純一

 古典の日文化基金賞の名誉総裁 彬子女王殿下はじめ伊吹文明様、都倉俊一文化庁長官、顕彰委員会及び選考委員会、候補者情報調査会の委員の先生方に御臨席を仰ぎ、第1回の授賞式を開催することができた御礼を述べました。
 平成20年の「源氏物語千年紀」から古典文化の普及に努めてきたが、日本文化を担う若者たちの古典離れの傾向が続くことを残念に思う中、同じ思いを持つ、芳賀徹先生(残念ながら一昨年にお亡くなりになりました)から示唆をいただき、全国各地で古典文化の振興に取り組む人達を顕彰する「古典の日文化基金賞」を設立し、本日、第1回の授賞式を執行するにいたった。
 古典とは、『源氏物語』や『枕草子』だけでなく、全国各地の地域と風土、歴史に根差した芸能、文学、工芸、祭事等、多彩で豊かな古典文化が存在する。本日受賞された3人と1団体は、「親しみやすい古典の在り方」を目指すこの賞の理念を体現し、活動を続けておられる方々で、見識のある先生方の目を通して選ばれたことは喜ばしい。この賞が、次世代を担う若者たちが誇りもって祖国の文化、古典を継承する活動の役に立つことを願うと述べ、開会の挨拶とした。

 

◆来賓祝辞
 衆議院議員 伊吹文明

 最初に日本の国として「古典の日」を定めなければならないという思いで、その法制化に携わっったお一人として、法制化までの経過をお話いただいた。当時(平成21年)、11月1日を「古典の日」として定めなければならないという村田会長、千玄室大宗匠、今は亡き芳賀徹氏の強い思いを聞き、党派を超えて「古典の日」推進議員連盟を設立(平成24年)する助けをし、衆・参議員本会議全会一致で可決、平成24年9月5日に「古典の日に関する法律」が公布・施行された。この法律が施行されて10年という時を経て、この文化基金賞が創設されたことはたいへん喜ばしい。
 現在、コロナがたいへんな問題になっているが、過去にも感染症のパンデミックはおこってきた。このような時こそ、古典を紐解き、どう生きるべきか、どう対応すべきかを考え、佳い未来を創っていくことを考えるのが11月1日である。
 古典の日文化基金賞が設立され今後の発展の期待と受賞された皆さんへの御祝いが述べられた。

 

 文化庁長官 都倉俊一

 受賞された皆さんの取り組みを通じて、人びとが古典のおもしろさ、魅力に気づくきっかけとなり、古典の入口への橋渡しとなることを願い、世界でも稀にみる我国の豊かな古典文化の研究・普及の取り組みを顕彰する基金賞と「古典の日」の取り組みがより一層、全国に広がっていくことを期待すると述べられた。

 

◆贈賞式
 【文学・思想分野】角田光代(作家)

◇受賞理由

この長い物語を俯瞰する面白さ、運命がねじれていく面白さを見渡したい

 「池澤夏樹個人編集日本古典文学全集」において、『源氏物語』の現代語訳にあたり、読みやすさとスピード感にあふれた表現に意欲的に取り組み、世代をこえた多くの読者の共感を得て、古典文学の普及と啓発に貢献した。
 「60歳になったら、再度、新訳に挑戦したい。」
 将来の新新訳『角田源氏』にも期待して・・・。

◇受賞のことば
 『源氏物語』の現代語訳を終えたのち、宇治を訪れて、深く感銘を受けました。千年以上も前から流れる宇治川を前にして、過去と現在と、物語と現実とが、一瞬でまじりあうのを体感したのです。川は流れ続け、人は悩み、かなしみつつも日々を暮らし続けている。千年ものあいだ読み継がれている物語は、ひとりの人間が生きる時間だけではけっしてわからないことを、なまなましく体感させてくれるのだとそのとき気づきました。
 このたびはすばらしい賞をいただきまして、本当にありがとうございます。
 

【伝統芸能・音楽分野】沖縄伝統組踊「子の会」会長 喜納吏一

◇受賞理由

文化、それは地域に生まれ、地域に根ざし、とわに花開く

 「組踊」の伝承者としての活動を通じて、先達から脈々と受け継がれてきた文化遺産である沖縄の伝統芸能の世界を保存発展させ、次世代へ継承していくことに貢献してきた。「子の会」の名前の由来でもある、琉球王国の士の誇りと、美ら海のような清い志をもって、今後とも、沖縄の古典芸能の普及発展に尽くしていただきたい。

◇受賞のことば
 この度は「古典の日文化基金賞」という栄えある賞を賜り誠にありがとうございます。受賞のお話をいただき、正直本当の事かと耳を疑い驚いているところです。
 沖縄伝統組踊「子の会」は、沖縄伝統芸能「組踊」の保存・継承につとめ、沖縄県内外における組踊の普及発展に寄与し、併せて会員相互の技芸向上を計ることを目的に活動しており、発足して今年で14年目となりました。
 日頃よりお世話になっている国立劇場おきなわを始めとする、すべての関係者のお力添えのもと、これまで多くの活動をさせていただけたことが、今回このような栄えある授賞となったことと感じており、今後も感謝の気持ちを忘れず、琉球芸能がより発展していけるよう努めて参る所存でございます。
 

【美術・生活文化分野】山本茜(截金ガラス作家)

◇受賞理由

生み出した美しい技は、時を超えた多くの先達の心技に支えられている

 飛鳥時代、仏像を荘厳するため伝来した伝統的な截金の技法を、独創的な発想と手法で発展活用し、新たに、「截金ガラス」の技法を創出した。日本を代表する『源氏物語』に啓発され、54帖をモチーフにした作品完成をライフワークにするなど、今後とも、若さ溢れる意欲的な活動に期待したい。

◇受賞のことば
 このたび記念すべき第1回の「古典の日文化基金賞」を賜りまして、大変光栄に存じます。私が初めて源氏物語に触れたのは中学校の古文の授業でした。「いづれの御時にかー」で始まる奥ゆかしい言葉の響きと雅な王朝文化に心を奪われて以来、愛読書となりました。事あるごとに読み返すと、物語はその時々の人生経験に見合った響きを返してきます。源氏物語を読み続けることが自分自身を見つめ直すことになり、ひいては源氏物語を制作することが自己表現に繋がると気付き、作家活動を始めてから一帖ずつ立体作品にすることをライフワークとしてまいりましたが、この取り組みを高く評価いただき、大変嬉しく存じます。現在22帖分が完成し、残り32作品ありますが、この受賞を励みに全帖完成に向けてより一層精進してまいります。ありがとうございました。
 

【芳賀徹記念・古典の日宣言特別賞】ツベタナ・クリステワ(国際基督教大学名誉教授)

◇受賞理由

言葉とは何か、日本語とは何か?文化の原点を問いかける

 ブルガリアの日本文学研究者として、来日後も、比較文化の視点から精力的に日本古典の研究を進め、『涙の詩学・王朝文化の詩的言語』等、多くの成果を発表してきた。芳賀徹先生とは、比較文化の研究者仲間として親交を深め、2008年11月1日の「源氏物語千年紀」国際フォーラムでも席を並べ、共に日本文化の国際発信に寄与した。

◇受賞のことば
 日本古典文学を織り成す「言の葉」は、木の葉のように、心を種として成長していくので、自然と心という二つの世界の重ね合わせによって作られた美は、存在のエッセンスを表しており、永遠である。私たち現代人がパソコンやスマホなどの画面の前に過ごす時間が増えるにつれ、その文学が色や香り、生き物の鳴き声を通して、失われつつある感覚の世界を覚えさせ、人間性について考えさせてくれる。それゆえ、古典の残り香が今もなお香りつづける京都で2008年に宣言された「古典の日」の重要性は一層高まっていくだろう。その宣言を記念する特別賞の受賞は、この上ない光栄で、嬉しいことでございます。「嬉しきも憂きも心は一つにてわかれぬものは涙なりけり」。ありがとう、芳賀先生。ありがとう、京都。

※受賞者の皆さんには、下記の盾と副賞100万円が授与されました。

 

 盾は、2008年の「源氏物語千年紀」から、2011年「古典の日」、2014年「琳派400年記念祭」2017年「古典の日法律制定5周年」の公式ポスター及びロゴマーク等を手掛けていただいた久谷政樹先生(京都造形芸術大学名誉教授)にデザインしていただきました。

 メダルは繁栄・長寿の意味をもつ唐草模様と源氏物語絵巻に描かれた源氏雲をモチーフに、「雲唐草」としてあらたに表現されたものです。

 

◆講評
 朧谷壽(選考委員会副会長)

 受賞者への御祝いと選考ポイント、次回に向けての抱負をお話いただきました。
 本賞の創設日を9月3日とした訳は、『更級日記』の作者菅原孝標の娘が13歳の頃、父親の赴任先である上総(現在の千葉)におりましたが、源氏のロマンスを夢見て、京都に帰ってある限りの物語が読みたいと願っていた。その念願が叶い心躍る都への旅立ちの日が9月3日で、その希望に満ち溢れた旅立ちの日を創設日とした。
 昨年の9月3日から今年の4月末までを第1回の募集期間とし、結果、自薦他薦の応募が58件、事務局が情報を収集した候補が47件。併せて105件の中から、3つの分野と芳賀徹記念特別賞の受賞者を決定。選考のポイントは、業績を重視する他に、将来性のある若者を発掘する、今後の活躍が期待できるという点。また、全国各地の優れた古典、親しみやすい伝統文化に留意し、地域の古典文化活動に着目した。今年に限っての芳賀徹記念・特別賞では、芳賀先生が比較文学・文化の大家であったことを考慮し、外国の日本文化研究者も念頭においた。第2回に向け、候補の上げきれていない候補者の情報収集と未熟でも将来性がおおいに期待される若い層の発見を心がける。

 

◆お祝いのことば
 西脇隆俊(京都府知事)

 受賞された皆さんの活動は、古典を親しみやすくするという会の趣旨に合致したもの。古典は先人の叡智の結晶であり、人類が持つ普遍的、永遠の問いを抱くもの。来年度の古典の日の法制化10周年、文化庁移転を控え、京都から国内外に文化の発信に力を注いでいくとのことばをいただいた。

 

 門川大作(京都市長)

 受賞者の皆さんのこれまでの活動に感動し、今後に期待する。古典をいかに今と未来に活かしていくか、このコロナ禍の中で、人間が生きていく上で古典から学ぶことが大事であることを実感している。文化で日本中を元気にし、世界から尊敬される国となり、さまざまな社会的課題を解決していく。村田会長が奇跡のような賞を創設したことへの感謝の気持ちが述べられた。

 

◆記念演奏
 東儀秀樹(古典の日文化基金賞選考委員会委員・篳篥)
 東儀典親(笙)
 藤林由里(ピアノ)
 「越天楽幻想曲」「浜辺の歌」

 

 大谷祥子(箏20弦)知原佑実(箏13弦)
 藤林由里(ピアノ)岸田うらら(パーカッション)
 「箏恋歌」

 

◆記念朗読
 檀ふみ(古典の日文化基金賞選考委員会委員・俳優)
 『山本容子の姫君たち』から
 「草の花」「山柿」「竹芝」

タイトル:「山本容子の姫君たち」より「行火」

 檀ふみさんに朗読いただいた背景には、銅版画家である山本容子さんの『山本容子の姫君たち』に描かれた孝標の娘が祖母に「もっと聞かせて、もっと聞かせて」とせがむシーン、他を投影する中、朗読いただきました。

 

◆記念講演
 彬子女王殿下(古典の日文化基金賞顕彰委員会名誉総裁)

 令和元年の春、初めて御体験された古典の世界は、令和のご大礼で十二単を御着用されたことでした。装束や鬘等、祈りの形を纏われていくうちに、御自身が平安絵巻の一員になったかのようなすばらしい御経験。また、纏う色や描かれた意匠、飾りにそれぞれに意味があること。この纏いの一つ一つから大嘗祭の意義の重さが全身に伝わり、儀に居合わせた感動をお話くださいました。
 また、日本の古典文学作品には、比喩的に表わされた文字から連想するおもしろさを発見する。例えば、『源氏物語』は、色のことがよくわかる古典作品で、作者、紫式部の名の通り、紫が一貫して登場する。『更級日記』には紫のゆかりとして記されているが、紫根で染めた紫は他のものと重ねておくと紫が色移りし、ゆかりのあるものを染めてしまうことから紫はゆかりの色といわれた。
 和歌を調べていると、花は詠まれても実が詠まれていないことに疑問を抱いた。中国ではお酒を飲み交わす歌が多くみられるが、日本や西洋では食べる、飲むという行為が和歌から遠ざけられていること。さらに平安貴族は喜怒哀楽という感情を表に出さないで生活してきた。しかし自分で制御できない哀(涙)は、もののあはれとして和歌に託してきた。見ているだけ、読んでいるだけでは理解できないのが古典の世界。和歌を探く理解するだけでも、古典を題材にした作品や絵などに触れると、あらたな糸口が見つかることがたくさんあることを知った。
 百人一首をテーマとした「ちはやふる」というマンガからでも古典の世界は開ける。是非たくさんの方が身近に古典を感じ、理解するきっかけになることを願っています、とのお話をいただきました。。