「四季草花草虫図屏風」(蝶・蜻蛉)鈴木其一「春秋草木図屏風」

俵屋宗達「双犬図」※作品画像はすべて部分、細見美術館蔵

過去の受賞者Prizewinner

第1回「古典の日文化基金賞」授賞式

 

日時:令和3年9月3日(金)午後1時~3時30分
場所:京都府立府民ホールアルティ

右前列中央より
 来 賓:彬子女王殿下(古典の日文化基金賞顕彰委員会名誉総裁)
     伊吹文明(衆議院議員)
     都倉俊一(文化庁長官)
     顕彰委員会顧問:中西進(京都市立芸術大学名誉教授)
     木津川計(立命館大学名誉教授)
 来 賓:芳賀満(東北大学教授 ※故 芳賀徹氏ご子息)
右後列中央より
 橋本 夏果(第12回古典の日朗読コンテスト【中学・高校生部門】大賞者
 候補者情報調査会委員:濱崎加奈子(京都府立大学準教授)
            田口章子(京都芸術大学教授)
            小林一彦(京都産業大学文化学部教授)
            栗原祐司(京都国立博物館副館長)
左前列中央より
 選考委員会副委員長:朧谷壽((公財)古代学協会理事長)
 顕彰委員会委員:塚本能交(京都商工会議所会頭)
         松村淳子(宇治市長)
         門川大作(京都市長)
         西脇隆俊(京都府知事)
 顕彰委員会会長:村田純一(古典の日推進委員会会長)
左後列中央より
 選考員会委員:葛西聖司(古典芸能解説者)
        檀ふみ(俳優)
        東儀秀樹(雅楽師)
        熊倉功夫(MIHO MUSEUM館長)
        井上八千代(京舞井上流五世家元)
        冷泉貴実子((公財)冷泉家時雨亭文庫常務理事)

 

◆受賞者の皆さん

左より【文学・思想分野】角田光代(作家)
   【伝統芸能・音楽分野】沖縄伝統組踊「子(しー)の会」
   【美術・生活文化分野】山本茜(截金ガラス作家)
   【芳賀徹記念・古典の日宣言特別賞】ツベタナ・クリステワ(国際基督教大学名誉教授)

 

◆「古典の日宣言」
 橋本夏果(第12回古典の日朗読コンテスト【中学・高校生部門】大賞受賞者

 

◆主催者挨拶
 古典の日推進委員会会長 村田純一

 古典の日文化基金賞の名誉総裁 彬子女王殿下はじめ伊吹文明様、都倉俊一文化庁長官、顕彰委員会及び選考委員会、候補者情報調査会の委員の先生方に御臨席を仰ぎ、第1回の授賞式を開催することができた御礼を述べました。
 平成20年の「源氏物語千年紀」から古典文化の普及に努めてきたが、日本文化を担う若者たちの古典離れの傾向が続くことを残念に思う中、同じ思いを持つ、芳賀徹先生(残念ながら一昨年にお亡くなりになりました)から示唆をいただき、全国各地で古典文化の振興に取り組む人達を顕彰する「古典の日文化基金賞」を設立し、本日、第1回の授賞式を執行するにいたった。
 古典とは、『源氏物語』や『枕草子』だけでなく、全国各地の地域と風土、歴史に根差した芸能、文学、工芸、祭事等、多彩で豊かな古典文化が存在する。本日受賞された3人と1団体は、「親しみやすい古典の在り方」を目指すこの賞の理念を体現し、活動を続けておられる方々で、見識のある先生方の目を通して選ばれたことは喜ばしい。この賞が、次世代を担う若者たちが誇りもって祖国の文化、古典を継承する活動の役に立つことを願うと述べ、開会の挨拶とした。

 

◆来賓祝辞
 衆議院議員 伊吹文明

 最初に日本の国として「古典の日」を定めなければならないという思いで、その法制化に携わっったお一人として、法制化までの経過をお話いただいた。当時(平成21年)、11月1日を「古典の日」として定めなければならないという村田会長、千玄室大宗匠、今は亡き芳賀徹氏の強い思いを聞き、党派を超えて「古典の日」推進議員連盟を設立(平成24年)する助けをし、衆・参議員本会議全会一致で可決、平成24年9月5日に「古典の日に関する法律」が公布・施行された。この法律が施行されて10年という時を経て、この文化基金賞が創設されたことはたいへん喜ばしい。
 現在、コロナがたいへんな問題になっているが、過去にも感染症のパンデミックはおこってきた。このような時こそ、古典を紐解き、どう生きるべきか、どう対応すべきかを考え、佳い未来を創っていくことを考えるのが11月1日である。
 古典の日文化基金賞が設立され今後の発展の期待と受賞された皆さんへの御祝いが述べられた。

 

 文化庁長官 都倉俊一

 受賞された皆さんの取り組みを通じて、人びとが古典のおもしろさ、魅力に気づくきっかけとなり、古典の入口への橋渡しとなることを願い、世界でも稀にみる我国の豊かな古典文化の研究・普及の取り組みを顕彰する基金賞と「古典の日」の取り組みがより一層、全国に広がっていくことを期待すると述べられた。

 

◆贈賞式
 【文学・思想分野】角田光代(作家)

◇受賞理由

この長い物語を俯瞰する面白さ、運命がねじれていく面白さを見渡したい

 「池澤夏樹個人編集日本古典文学全集」において、『源氏物語』の現代語訳にあたり、読みやすさとスピード感にあふれた表現に意欲的に取り組み、世代をこえた多くの読者の共感を得て、古典文学の普及と啓発に貢献した。
 「60歳になったら、再度、新訳に挑戦したい。」
 将来の新新訳『角田源氏』にも期待して・・・。

◇受賞のことば
 『源氏物語』の現代語訳を終えたのち、宇治を訪れて、深く感銘を受けました。千年以上も前から流れる宇治川を前にして、過去と現在と、物語と現実とが、一瞬でまじりあうのを体感したのです。川は流れ続け、人は悩み、かなしみつつも日々を暮らし続けている。千年ものあいだ読み継がれている物語は、ひとりの人間が生きる時間だけではけっしてわからないことを、なまなましく体感させてくれるのだとそのとき気づきました。
 このたびはすばらしい賞をいただきまして、本当にありがとうございます。
 

【伝統芸能・音楽分野】沖縄伝統組踊「子の会」会長 喜納吏一

◇受賞理由

文化、それは地域に生まれ、地域に根ざし、とわに花開く

 「組踊」の伝承者としての活動を通じて、先達から脈々と受け継がれてきた文化遺産である沖縄の伝統芸能の世界を保存発展させ、次世代へ継承していくことに貢献してきた。「子の会」の名前の由来でもある、琉球王国の士の誇りと、美ら海のような清い志をもって、今後とも、沖縄の古典芸能の普及発展に尽くしていただきたい。

◇受賞のことば
 この度は「古典の日文化基金賞」という栄えある賞を賜り誠にありがとうございます。受賞のお話をいただき、正直本当の事かと耳を疑い驚いているところです。
 沖縄伝統組踊「子の会」は、沖縄伝統芸能「組踊」の保存・継承につとめ、沖縄県内外における組踊の普及発展に寄与し、併せて会員相互の技芸向上を計ることを目的に活動しており、発足して今年で14年目となりました。
 日頃よりお世話になっている国立劇場おきなわを始めとする、すべての関係者のお力添えのもと、これまで多くの活動をさせていただけたことが、今回このような栄えある授賞となったことと感じており、今後も感謝の気持ちを忘れず、琉球芸能がより発展していけるよう努めて参る所存でございます。
 

【美術・生活文化分野】山本茜(截金ガラス作家)

◇受賞理由

生み出した美しい技は、時を超えた多くの先達の心技に支えられている

 飛鳥時代、仏像を荘厳するため伝来した伝統的な截金の技法を、独創的な発想と手法で発展活用し、新たに、「截金ガラス」の技法を創出した。日本を代表する『源氏物語』に啓発され、54帖をモチーフにした作品完成をライフワークにするなど、今後とも、若さ溢れる意欲的な活動に期待したい。

◇受賞のことば
 このたび記念すべき第1回の「古典の日文化基金賞」を賜りまして、大変光栄に存じます。私が初めて源氏物語に触れたのは中学校の古文の授業でした。「いづれの御時にかー」で始まる奥ゆかしい言葉の響きと雅な王朝文化に心を奪われて以来、愛読書となりました。事あるごとに読み返すと、物語はその時々の人生経験に見合った響きを返してきます。源氏物語を読み続けることが自分自身を見つめ直すことになり、ひいては源氏物語を制作することが自己表現に繋がると気付き、作家活動を始めてから一帖ずつ立体作品にすることをライフワークとしてまいりましたが、この取り組みを高く評価いただき、大変嬉しく存じます。現在22帖分が完成し、残り32作品ありますが、この受賞を励みに全帖完成に向けてより一層精進してまいります。ありがとうございました。
 

【芳賀徹記念・古典の日宣言特別賞】ツベタナ・クリステワ(国際基督教大学名誉教授)

◇受賞理由

言葉とは何か、日本語とは何か?文化の原点を問いかける

 ブルガリアの日本文学研究者として、来日後も、比較文化の視点から精力的に日本古典の研究を進め、『涙の詩学・王朝文化の詩的言語』等、多くの成果を発表してきた。芳賀徹先生とは、比較文化の研究者仲間として親交を深め、2008年11月1日の「源氏物語千年紀」国際フォーラムでも席を並べ、共に日本文化の国際発信に寄与した。

◇受賞のことば
 日本古典文学を織り成す「言の葉」は、木の葉のように、心を種として成長していくので、自然と心という二つの世界の重ね合わせによって作られた美は、存在のエッセンスを表しており、永遠である。私たち現代人がパソコンやスマホなどの画面の前に過ごす時間が増えるにつれ、その文学が色や香り、生き物の鳴き声を通して、失われつつある感覚の世界を覚えさせ、人間性について考えさせてくれる。それゆえ、古典の残り香が今もなお香りつづける京都で2008年に宣言された「古典の日」の重要性は一層高まっていくだろう。その宣言を記念する特別賞の受賞は、この上ない光栄で、嬉しいことでございます。「嬉しきも憂きも心は一つにてわかれぬものは涙なりけり」。ありがとう、芳賀先生。ありがとう、京都。

※受賞者の皆さんには、下記の盾と副賞100万円が授与されました。

 

 盾は、2008年の「源氏物語千年紀」から、2011年「古典の日」、2014年「琳派400年記念祭」2017年「古典の日法律制定5周年」の公式ポスター及びロゴマーク等を手掛けていただいた久谷政樹先生(京都造形芸術大学名誉教授)にデザインしていただきました。

 メダルは繁栄・長寿の意味をもつ唐草模様と源氏物語絵巻に描かれた源氏雲をモチーフに、「雲唐草」としてあらたに表現されたものです。

 

◆講評
 朧谷壽(選考委員会副会長)

 受賞者への御祝いと選考ポイント、次回に向けての抱負をお話いただきました。
 本賞の創設日を9月3日とした訳は、『更級日記』の作者菅原孝標の娘が13歳の頃、父親の赴任先である上総(現在の千葉)におりましたが、源氏のロマンスを夢見て、京都に帰ってある限りの物語が読みたいと願っていた。その念願が叶い心躍る都への旅立ちの日が9月3日で、その希望に満ち溢れた旅立ちの日を創設日とした。
 昨年の9月3日から今年の4月末までを第1回の募集期間とし、結果、自薦他薦の応募が58件、事務局が情報を収集した候補が47件。併せて105件の中から、3つの分野と芳賀徹記念特別賞の受賞者を決定。選考のポイントは、業績を重視する他に、将来性のある若者を発掘する、今後の活躍が期待できるという点。また、全国各地の優れた古典、親しみやすい伝統文化に留意し、地域の古典文化活動に着目した。今年に限っての芳賀徹記念・特別賞では、芳賀先生が比較文学・文化の大家であったことを考慮し、外国の日本文化研究者も念頭においた。第2回に向け、候補の上げきれていない候補者の情報収集と未熟でも将来性がおおいに期待される若い層の発見を心がける。

 

◆お祝いのことば
 西脇隆俊(京都府知事)

 受賞された皆さんの活動は、古典を親しみやすくするという会の趣旨に合致したもの。古典は先人の叡智の結晶であり、人類が持つ普遍的、永遠の問いを抱くもの。来年度の古典の日の法制化10周年、文化庁移転を控え、京都から国内外に文化の発信に力を注いでいくとのことばをいただいた。

 

 門川大作(京都市長)

 受賞者の皆さんのこれまでの活動に感動し、今後に期待する。古典をいかに今と未来に活かしていくか、このコロナ禍の中で、人間が生きていく上で古典から学ぶことが大事であることを実感している。文化で日本中を元気にし、世界から尊敬される国となり、さまざまな社会的課題を解決していく。村田会長が奇跡のような賞を創設したことへの感謝の気持ちが述べられた。

 

◆記念演奏
 東儀秀樹(古典の日文化基金賞選考委員会委員・篳篥)
 東儀典親(笙)
 藤林由里(ピアノ)
 「越天楽幻想曲」「浜辺の歌」

 

 大谷祥子(箏20弦)知原佑実(箏13弦)
 藤林由里(ピアノ)岸田うらら(パーカッション)
 「箏恋歌」

 

◆記念朗読
 檀ふみ(古典の日文化基金賞選考委員会委員・俳優)
 『山本容子の姫君たち』から
 「草の花」「山柿」「竹芝」

タイトル:「山本容子の姫君たち」より「行火」

 檀ふみさんに朗読いただいた背景には、銅版画家である山本容子さんの『山本容子の姫君たち』に描かれた孝標の娘が祖母に「もっと聞かせて、もっと聞かせて」とせがむシーン、他を投影する中、朗読いただきました。

 

◆記念講演
 彬子女王殿下(古典の日文化基金賞顕彰委員会名誉総裁)

 令和元年の春、初めて御体験された古典の世界は、令和のご大礼で十二単を御着用されたことでした。装束や鬘等、祈りの形を纏われていくうちに、御自身が平安絵巻の一員になったかのようなすばらしい御経験。また、纏う色や描かれた意匠、飾りにそれぞれに意味があること。この纏いの一つ一つから大嘗祭の意義の重さが全身に伝わり、儀に居合わせた感動をお話くださいました。
 また、日本の古典文学作品には、比喩的に表わされた文字から連想するおもしろさを発見する。例えば、『源氏物語』は、色のことがよくわかる古典作品で、作者、紫式部の名の通り、紫が一貫して登場する。『更級日記』には紫のゆかりとして記されているが、紫根で染めた紫は他のものと重ねておくと紫が色移りし、ゆかりのあるものを染めてしまうことから紫はゆかりの色といわれた。
 和歌を調べていると、花は詠まれても実が詠まれていないことに疑問を抱いた。中国ではお酒を飲み交わす歌が多くみられるが、日本や西洋では食べる、飲むという行為が和歌から遠ざけられていること。さらに平安貴族は喜怒哀楽という感情を表に出さないで生活してきた。しかし自分で制御できない哀(涙)は、もののあはれとして和歌に託してきた。見ているだけ、読んでいるだけでは理解できないのが古典の世界。和歌を探く理解するだけでも、古典を題材にした作品や絵などに触れると、あらたな糸口が見つかることがたくさんあることを知った。
 百人一首をテーマとした「ちはやふる」というマンガからでも古典の世界は開ける。是非たくさんの方が身近に古典を感じ、理解するきっかけになることを願っています、とのお話をいただきました。。